人を含めた高等生物は管腔様構造の臓器ネットワークを有しており、その形成過程における破綻は人においてもよく見られる異常であるが、これらの破綻の原因は遺伝的要因と環境的要因とが交差しており不明な点が多い。申請者はCelsr1欠損マウスが生殖器系に代表される管腔様構造の形成不全を呈し、この表現型が糖転移酵素欠損マウスの表現型と酷似することを発見した。 Celsr1蛋白質には2箇所のEGF-like motifが存在し、糖転移酵素の標的となることが予想される。これらEGF motifとヒトIgG Fc領域との融合分泌蛋白質の解析により、Celsr1蛋白質はこれらの候補配列において、O-フコシル化されFringe修飾されることが明らかとなった。フコシル化サイトの点変異蛋白質は大部分が小胞体に、一部はgolgi体に蓄積しており、電気穿孔法の改良によりFringe欠損株に導入した正常な融合分泌蛋白質でも同様であったことから、O-フコシル化とFringe修飾により細胞内分布が制御されることが示唆された。さらに、Celsr1全長蛋白質のフコシル化サイトの点変異により、Celsr1蛋白質の細胞膜表面への移行が阻害された。哺乳類に存在する各Fringe欠損マウス、およびFringe全欠損マウスを解析しCelsr1欠損マウスの表現型と比較したところ、Fringe全欠損マウスは同様に生殖器官形成に異常を呈するが、神経細胞移動制御や旋毛の形成といったCelsr1欠損マウスでの一部の表現型については確認できなかった。 以上の結果から「翻訳後の糖鎖修飾がCelsr1蛋白質の局在を制御する」ことが明らかとなり、管腔様構造の形成に特異的な、これらの糖鎖修飾による制御機構が明らかとなった。
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