研究課題/領域番号 |
26460272
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
藤井 千文 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (10361982)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ASC / 浸潤突起 |
研究実績の概要 |
本研究代表者らは、これまでに種々のがんにおいて、インフラマソーム構成分子ASCの発現量が、がんの悪性度と相関して低下することを報告した。さらに、他の研究グループからも、メチル化によるASCの発現量低下と転移巣の形成を関連付ける報告がなされている。しかし、このような報告は多数あるものの、ASCとがんの悪性化を結びつける分子メカニズムには不明な点が多く、さらなる解析が必要である。本研究課題では、ASCの発現量低下に伴うがん細胞の機能や形態の変化を基に、ASCによる細胞骨格制御を介した転移や悪性化の分子機構について解析し、新規転移がん治療法の開発へと繋がる基礎的知見を得ることを目的として解析を行っている。 ASCの発現量低下ががん細胞に及ぼす影響を解析するため、ASCを発現しているマウスメラノーマ細胞株でshRNAを用いてASCノックダウン細胞を作製した。この細胞では、これまでに、実験的肺転移モデルでの転移能亢進や、細胞運動能および浸潤突起形成能の亢進が観察されていたが、さらに、マトリゲル浸潤アッセイによる解析を行ったところ、浸潤能の亢進が見られた。また、これとは別に、ASCノックアウトマウスよりマクロファージを調製して、浸潤突起(ポドソーム)の形成を調べたところ、野生型マウスのものに比べて、ポドソーム形成能が高いという結果が得られた。以上の結果から、ASCの発現量低下により、がん細胞のみならず、浸潤能をもつ正常細胞においても、細胞運動能や浸潤突起形成能が亢進することが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ASCの発現量低下が、がん細胞に及ぼす影響を解析するため、昨年度に引き続きASCノックダウン細胞を用いて、機能解析および分子メカニズムの解析を行った。これまでに、ASCノックダウン細胞では、細胞運動能と浸潤突起形成の亢進が確認されていたが、本年度は、さらに、マトリゲルを用いた基底膜層への細胞浸潤能の解析を行った。その結果、ASCノックダウン細胞では、基底膜への浸潤能が有意に亢進していることが示された。これらの結果は、ASCの発現量低下が、がん細胞に転移能の亢進をもたらす一因となっていることを示唆している。 ASCのノックダウン解析は、主に、マウスメラノーマ細胞株B16BL6を用いて行っているが、本年度は、さらに、ASCノックアウトマウスから初代培養した細胞を用いて解析を行った。がん細胞にはinvadopodiaと呼ばれる浸潤突起が形成されるが、マクロファージや破骨細胞などでも浸潤突起が形成され、これらはポドソームと呼ばれている。そこで、ASCノックアウトマウスより、チオグリコレート誘導腹腔マクロファージを調製して、ポドソーム形成能の解析を行ったところ、野生型マウスに比べて、ASCノックアウトマウスで、浸潤突起(ポドソーム)の形成能が亢進していることが明らかとなった。また、ノックアウトマウスにおいては、Srcファミリーキナーゼのリン酸化が亢進しているという予備的な結果を得た。これらの結果は、ASCノックダウン細胞を用いた結果と矛盾しないものである。以上の結果から、ASCの発現量低下により、何らかの要因でSrcシグナル伝達経路の活性化が起こり、細胞の浸潤突起形成能が亢進することが、種々の細胞で示された。Srcファミリーキナーゼのリン酸化亢進のメカニズムについては、今後の課題である。 以上の結果を得たことより、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、主に、ASCの発現量低下による細胞の基底膜への浸潤能ならびに浸潤突起形成の変化などの、機能解析が主なものとなったが、この分子メカニズムについて、最終年度となる来年度に明らかにする。分子メカニズムについては、これまでに、ASCのノックダウンにより、Srcファミリーキナーゼのリン酸化およびその下流シグナルが亢進し、Src阻害剤により、細胞運動、浸潤突起形成ともに抑制されるという結果が得られているが、これまでに解析を試みていない周囲の経路についてもASCとの相互作用をもとに、詳細な解析を試みる。これらの以上の内容により、ASCの発現量低下によるがん細胞の運動能や浸潤能の変化について考察する。 また、ASCはインフラマソーム形成に関与するアダプター分子であるため、炎症性刺激などによりインフラマソーム形成時にASCと結合するNOD様受容体が、がん細胞の転移能に与える影響について解析を行う。現在用いているマウスメラノーマ細胞では、NOD様受容体の発現がほとんど認められないため、これらを発現させた際に細胞運動や浸潤突起形成に影響を与えるか否かについて解析を行う。さらに、NOD様受容体およびASCを発現している他のがん細胞株が炎症性刺激や細胞内容物に暴露された際の細胞運動や浸潤突起の形成に与える影響についても解析を試みる。また、ASCは、インフラマソーム形成時にはカスパーゼ-1と結合することが一般的だが、カスパーゼ-8と結合することも知られている。これとは別に、カスパーゼ8が細胞運動に関与しているとの報告もあることから、ASCとカスパーゼ-8、細胞運動との関係について解析を行う。以上の結果から、ASCの発現量低下によるがん細胞の転移能変化の分子機構と、炎症との関与について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、論文投稿の準備に多くの時間を費やしたため、当初計画で見込んだよりも、試薬類の消耗品費など実験にかかる費用の出費が少なくなったことにより、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、細胞レベルでの解析、分子生物学および生化学的実験による分子メカニズムの解析を中心に行う。また、本年度得られた成果の学会発表、論文発表を行う予定である。投稿中の論文は、現在リバイスの段階であり、この掲載費用が必要となる。次年度使用額は、平成28年度請求額と合わせて上記目的に使用する。
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