研究課題/領域番号 |
26460273
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
本橋 力 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40334932)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 上皮-間充織転換 / 神経堤細胞 / Sox10 / 直接転換 / 蛍光タンパク質 / レトロウィルス |
研究実績の概要 |
平成27年度においては、本研究中に観察された現象であるEMTに関係する転写因子を用いた神経堤細胞への直接転換について特化して行った。以下にその結果を述べる。 1. EMT現象に関係する転写因子を用いた神経堤細胞への直接転換:EMT現象に関係すると推測した転写因子をSox10-IRES-GFPマウス由来の細胞に過剰発現させ神経堤細胞へ直接転換できるかどうかの検討を行った。様々な転写因子を検討した結果、SOX9もしくはSOX10をSox10-IRES-GFPマウス由来の線維芽細胞に各々単独で過剰発現させると、約6日でGFP(SOX10)陽性細胞が発生することが明らかになった。フローサイトメーターでGFP陽性細胞を採取したところ、神経堤細胞のマーカー遺伝子P75、Foxd3、Pax3等の発現がRT-PCRにより認められた。さらにGFP陽性細胞を分化培地で3週間培養すると、神経細胞、グリア細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞への分化が認められた。以上より、SOX9とSOX10が線維芽細胞を神経堤様の細胞に直接転換していることが明らかになった。ただ、この神経堤様の細胞を長期間維持するにはSOX9もしくはSOX10だけでは十分ではなく、同時にc-MYC、KLF4の発現が必要だった。 2. 線維芽細胞以外の細胞での神経堤細胞への直接転換:線維芽細胞以外の細胞でもSOX10の過剰発現を行い、神経堤細胞への直接転換を試みた。骨髄由来ストローマ細胞ST2ではSOX10を過剰発現により神経堤細胞のマーカー遺伝子が発現し、グリア細胞に分化できる神経堤様細胞が発生した。一方、角化細胞XB2、ミエローマ細胞SE1ではSOX10を過剰発現しても神経堤様細胞は発生しなかった。以上より、線維芽細胞や骨髄ストローマ細胞などの間葉系細胞以外の細胞を神経堤細胞へ直接転換するためには、SOX10以外の転写因子が必要で有ることが示唆された。特に上皮系細胞の直接転換では、EMTに関係する転写因子の役割が期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究から派生した成果である線維芽細胞の神経堤細胞への直接転換研究に特化したため、本研究をあまり進展させることができなかった。しかしこの成果を元にして様々な細胞のEMTを介した神経堤細胞への転換研究を今後も続けることは、本研究の目的であるEMT現象の解明につながると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の成果を元に、薬剤誘導系や抑制系を用いてSOX10の発現制御を行い、線維芽細胞の直接転換のメカニズムを解明する。線維芽細胞以外の細胞に対しては、EMT現象への関与が示唆された転写因子をSOX10と供に発現させ、EMT現象を経由した神経堤細胞への直接転換を検討する。この直接転換でもSOX10やEMT関連転写因子の発現制御を行い、EMT現象と直接転換の分子ネットワークを明らかにする。関与が認められなかった転写因子に関しても、転写因子同士の共発現を検討し、EMTや直接転換への関与の可能性を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究から派生した成果である線維芽細胞の神経堤細胞への直接転換研究に特化したため、当初の計画を大幅に変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に行った研究成果を元にして候補転写因子の直接転換とEMTとの関連性を調べる。そのために、フローサイトメーター解析のための各種蛍光抗体、遺伝子発現制御システム、遺伝子導入関連物品(遺伝子導入試薬、電気的遺伝子導入機器、レトロウィルス発現関連試薬)の購入に経費を使用する予定である。また、各種細胞培養のために必要な培養関連試薬、培地、さらにSox10-IRES-GFPマウスなど動物飼育費用等も計上している。
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