EMT現象に関する遺伝子の探索:前年度までに、マウス角化細胞に4つの転写因子をレトロウィルスを用いて同時に過剰発現するとSca-1、PDGFRα両陽性細胞が出現することを見出した。さらにこの両陽性細胞ではVimentinの発現上昇とE-Cadherinの発現減少がみられ、4つの転写因子によりマウス角化細胞でEMT現象が発生していることが明らかになった。本年度は、Sca-1、PDGFRα両陽性細胞の遺伝子発現と分化能を調べ、間葉系細胞としての性質を調べた。単離したSca-1、PDGFRα両陽性細胞では間葉系細胞のマーカーCD105とCD49eの発現が観察された。さらに間葉系細胞分化培地で培養したところ脂肪細胞への分化も観察された。以上より、Sca-1、PDGFRα両陽性細胞はEMTにより発生した間葉系細胞であることが示唆された。今後は発生した間葉系細胞の他の細胞系譜への分化(骨細胞、軟骨細胞など)を調べるとともに、4つの転写因子によるEMT発生のメカニズムも解明する予定である。
EMT現象を用いた神経堤細胞への直接転換:これまでの研究では、神経堤細胞に直接転換できなかった角化細胞が、上記の研究で明らかした4つの転写因子によるEMT現象の発生と供にSOX10を過剰発現させると、約10日で神経堤細胞のマーカーであるP75を発現する細胞に転換することを示してきた。本年度はP75陽性細胞を採取し、その分化能を調べた。P75陽性細胞を採取し、神経堤細胞の分化条件で培養したところ、約3週間後にTuJ-1陽性の神経細胞、GFAP陽性のグリア細胞が免疫染色によって確認された。これにより出現したP75陽性細胞は、生体の神経堤細胞と同様の分化能を持つことが観察された。本研究により、神経堤細胞に直接転換できなかった角化細胞でも、EMTを経由すれば神経堤細胞に直接転換できる可能性が見い出された。
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