研究課題/領域番号 |
26460279
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
永石 歓和 札幌医科大学, 医学部, 講師 (30544118)
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研究分担者 |
藤宮 峯子 札幌医科大学, 医学部, 教授 (10199359)
有村 佳昭 札幌医科大学, 医学部, 講師 (80305218)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 骨髄間葉系幹細胞 / 糖尿病性腎症 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、糖尿病骨髄由来MSC(DM-MSC)と非糖尿病骨髄由来MSC(control-MSC)を比較検討し、DM-MSCの異常性を解析した。 はじめに、糖尿病モデル動物の骨髄由来MSC(DM-MSC)と非糖尿病モデル動物の骨髄由来MSC(control-MSC)を比較検討した。ストレプトゾトシン誘導I型糖尿病モデルラットおよびOLETF-II型糖尿病モデルラットから各々MSCを単離培養し、形態学的解析および形質解析を行った。DM-MSCはcontrol-MSCに比較して、増殖能、液性因子産生能が低下しており、老化・アポトーシス等に関連する遺伝子の発現変化、細胞内小器官の変性、小胞体ストレス、アポトーシス関連因子の発現増強を認めた。 さらに、次年度以降に計画していた異常なDM-MSCの機能を改善する方法についても、開発に着手し、ヒト生体由来材料を用いた新しい細胞調整法を見出し、特許申請するに至った。 またヒト骨髄由来MSCについては、非糖尿病症例においても培養効率が低く、自己血清添加の有無等培養法の検討から施行し、培養法を確立した。増殖能については症例間の差が大きく、次年度以降で症例数を増やした非糖尿病患者および糖尿病患者由来骨髄MSCの比較を行う予定である。 一方、各細胞の糖尿病マウスモデルの腎機能障害に対する治療効果を比較検討した。尿中アルブミン・クレアチニン比を指標に腎機能評価を行ったが、同一群内における個体差のみならず同一個体における日差も大きいことが判明し、反復採尿、採尿量の増加等の評価法の再検討を要した。I型、II型糖尿病モデル動物由来の骨髄MSCともにDM-MSCはcontrol-MSCに比較して細胞投与によるDM-MSCは腎機能障害を改善しないか、むしろ増悪させる可能性が明らかとなった。さらに安定的な薬理効果の評価を目的に、マウスモデルに加えてラットモデルも作製し、評価を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度に予定していた糖尿病動物モデル由来のDM-MSCとcontrol-MSCのin vivoにおける比較解析を、I型およびII型糖尿病モデルの両方について施行することができた。また、次年度以降に予定していた異常なDM-MSCに対する細胞調整法の開発にも着手することができた。細胞調整剤の一つとして、ヒト生体由来材料を用いた賦活化法を開発し、動物モデル由来のDM-MSCに対する細胞賦活化効果を明らかにした。この賦活化剤の製造法、および異常なMSCに対する賦活化を目的とした用途を対象に、特許申請も行うことができた。 さらには、異常なDM-MSCをまた、糖尿病モデルマウスを用いた腎障害に対するこれらのMSCの薬理効果の検討を行ったところ、マウスモデル腎の生理的機能の評価が不安定で、従来報告されている方法での評価が困難であることを見出し、安定的な評価法を検討する過程を計画に追加した。その上で、STZ, HFDの両方のモデルを用いて、DM-MSCとcontrol-MSCの薬効を評価することができた。各種解析は、当初の計画内容の進行に加え、次年度以降に予定していた研究内容にも着手し、一定の成果をあげた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究成果から、DM-MSCの増殖能や生理活性物質産生能、形態学的な異常性を明らかにしたが、次年度はさらに免疫制御能や遊走能のほか、生体内での局在、生着能等のin vivoでの有効性機序解明に繋がる解析を行う。 さらに、骨髄由来の異常なMSCの質を改善する細胞調整法および異常細胞の選別・除去法を確立する。培養MSCがヘテロな細胞の集団であり、DM-MSCの中にも正常な機能を有するMSCが含まれる可能性があり、質と量の双方からDM-MSCを細胞治療における有効性のある細胞群に調整するためのさらなる賦活化法の開発を進める。 DM-MSCの培養環境の最適化による細胞調整法の工夫;平成26年度で開発した賦活化剤について、その有効性機序をさらに解析するとともに、他の賦活化方法についても併せて検討する。培養における酸素濃度や血清濃度の変化、および各種物理的刺激を加えて細胞の培養環境を調節することで、分化増殖能等に与える影響を検討する これらの各種培養法で調整した細胞を用いて糖尿病モデル動物に対する細胞療法の効果および有効性機序を解析し、賦活化法の実用性について併せて検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
糖尿病患者および非糖尿病患者由来MSCを単離培養して、その細胞形質および産生する液性因子について網羅的解析を行う予定で予算計画を立てていた。しかし症例間の増殖能等の差異が大きく、症例数を増やした上で解析対象を選択する必要性が生じたこと、およびヒト骨髄由来MSCの安定的な培養法の確立を要したことから、平成26年度には網羅的解析を行わず、次年度に行うこととしたため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度請求した予算と合わせて、糖尿病患者骨髄由来MSCの異常性解析を網羅的手法を用いて施行する。遺伝子解析、タンパク質解析等を含む。さらに、糖尿病性腎症のin vivoでの細胞治療の効果を評価するにあたり、安定性・再現性のあるモデルとして、ラットでのモデル作製を引き続き検討する。OLETF ratはコントロールとしてのLETO ratとともに多くの予算が必要なモデルであるため、平成26年度の繰越金額の一部も含めてモデル動物の作製を行う。 また、異常化した細胞の調整方法の開発にあたり、培養環境の調整(添加物および物理的刺激等)に必要な消耗品、機器の借用費用等にも助成金を使用していく予定である。
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