研究課題/領域番号 |
26460280
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小川 登紀子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (30382229)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 慢性ストレス / 蛋白分解系 / 細胞死メカニズム / 微細形態 |
研究実績の概要 |
本研究では、持続的ストレスを負荷したラットモデルの下垂体中間葉のホルモン分泌細胞(メラノトロフ)と、肝細胞に起こる細胞死を解析することで、慢性的ストレス下に起こる細胞死メカニズムを明らかにしようとしている。合わせて、メラノトロフ細胞死の過程で一部の細胞に発現する、CHOP分子の機能を明らかにすることをもう一つの目的としている。 メラノトロフの細胞死は、その引き金として蛋白や細胞内小器官の分解・リサイクル過程の異常が考えられ、最終的に細胞膜の破綻したネクローシス様細胞死の形態を示す、という二つの特徴を有することがわかってきた。ラットメラノトロフの初代培養細胞を用いた実験からは、細胞内分解系の阻害剤によりネクローシス様細胞死が起こることを明らかにした。CHOPはこの阻害剤のもとでは発現せず、ネクローシスの起こらない別の阻害剤を添加した際に発現がみられたことから、CHOPはネクローシスの回避と関連して発現している可能性が考えられた。 本年度より解析を始めた変性肝細胞にも、メラノトロフの変性細胞と同様に細胞内分解系の異常を示す特徴が認められた。また、これらの細胞変性との関連が疑われる複数のストレス応答分子の発現を確認した。これらの分子は様々なストレスに応答することが知られる転写因子であり、これらの標的分子のうち複数の分子の遺伝子発現が、持続的ストレスにより変化していることがわかった。これらの分子発現を手がかりとして、生体の受ける持続的ストレスが、各臓器や細胞に与えるストレスの種類や、細胞変性を生じさせるメカニズムの解明を進めている。 本年度までの研究により、持続的ストレスを負荷したラットの二つの臓器において、細胞内分解系の異常を示す細胞変性が確認され、慢性的ストレス特有の細胞死メカニズムの存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットメラノトロフの初代培養細胞を用いた実験では、メラノトロフのホルモン合成の活性化状態を維持したうえで、特定のタンパク分解系阻害剤を用いることによりネクローシスの再現ができることがわかった。また、これとは別の阻害剤により、培養系でのCHOP分子の発現が実現し、たが、その発現率が低いため改善を必要とするが、 CHOPノックアウトマウスの利用を予定していたが、ラットと同様の手法でマウスメラノトロフ細胞死を再現することができなかったため、マウスによる実験は適切ではないと判断した。 以上の経緯から、CHOP分子のメラノトロフにおける機能解析を行うツールとして、ラットへのストレスを負荷する方法・期間を変更したモデル(改変モデル)を中心に行うこととした。従来のラットモデルでCHOP発現細胞の出現頻度が少ないことが問題であったが、改変モデルでは、CHOPの発現が早まり、発現率が高まること、メラノトロフの微細形態学的特徴が従来のモデルのものとやや異なることを確認している。CHOPの機能解析には、これら二つのラットモデルと、ラットメラノトロフ培養細胞を用いて進めている。 モデルラットの下垂体以外の組織における細胞死の解析では、肝細胞においてタンパク分解系の異常を示す変性細胞を同定した。細胞変性は、散発的ながら特定の領域に起こることを見いだした。また、このような変化と関連が疑われるストレス応答分子の発現を確認し、これらの分子発現を中心に解析を進めている。持続的なストレス負荷により、下垂体以外の組織でも類似したメカニズムによる細胞死が起こっていることを明らかにできる可能性がある。 当初の実験計画にあったマウスによる実験を中止したが、代替の方法を決定できこと、新たに見いだした肝細胞変性を対象とした研究が進展しているため、おおむね予定通りに進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、メラノトロフに発現するCHOP分子の機能解析と、肝細胞変性・細胞死の分子メカニズムを中心に解析を行う。 メラノトロフの細胞死過程で発現する転写因子CHOPの機能解析においては、従来のモデルよりもCHOPの発現率を高めた改変モデルを中心に解析を行う。この改変モデルは、従来のストレス負荷に先立って、短期間の予備的ストレスを負荷しておくもので、ストレス耐性が生じていると考えられることから、CHOP分子の発現とネクローシス様細胞死、およびストレス耐性との関連について検討を行う。また培養系では、タンパク分解系阻害剤の種類により、ネクローシスを引き起こす実験系と、ネクローシスを生じさせずCHOPが発現する実験系を作出した。今のところ、CHOPの発現率が低いことが問題であるため、後者の実験系においてCHOPの発現率を高めることができれば、利用する予定である。 従来のモデルに確認された蛋白分解系の異常を示す肝細胞(変性肝細胞)の解析を進める。変性肝細胞の出現分布には、肝小葉内での偏りが認められる。肝細胞はその肝小葉内における位置により役割が異なることが知られており、持続的ストレスによる肝細胞機能の変化と細胞変性との関連を調べる。また、肝細胞変性との関連が疑われるストレス応答分子の発現を確認しており、これらの分子を中心に解析を進める。これらのストレス応答分子は転写因子として働き、その機能は多岐にわたることが知られている。ラットモデルの肝臓に生じるストレスの種類やこれらの転写因子の標的分子を特定することで、持続的ストレス下で細胞変性が生じるメカニズムを明らかにできると考える。また、メラノトロフの解析に用いる改変モデルを併用することで、肝細胞変性とストレス耐性との関連についての知見が得られるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に論文投稿を予定しており論文掲載料として予算を計上していたが、掲載に至らなかった。また、学会参加のために旅費および宿泊費の支出を予定していたが、別予算から支出したためこれを必要としなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
論文の掲載料については、次年度の論文投稿に関わる費用として使用する。また、旅費および宿泊費の繰り越し分は物品費の繰り越し分と合わせ、次年度の実験にかかる物品費として使用する。
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