本研究は、持続的なストレスを負荷したモデルラットを用い、一定期間ストレスが持続した際に起こる細胞死のメカニズムを明らかにすることを目的として実施した。このモデルラットでは、下垂体中間葉のメラノトロフ細胞に細胞死が起こることをすでに報告しているが、新たに肝細胞にも細胞死が起こることを明らかにし、これら二つの細胞死を対象として細胞死の起こるメカニズムを検討した。 本年度は、このモデルラットの肝臓に散発的に起こる肝細胞変性・細胞死について解析を行った。変性肝細胞には、細胞内のリサイクル機構の異常と、細胞のエネルギー供給に関わるミトコンドリアの形態異常が観察された。これは下垂体メラノトロフの変性細胞と共通する特徴であった。また、変性肝細胞は免疫組織染色によって酸化ストレスマーカーに陽性を示し、酸化ストレスが細胞変性の直接的な原因であると考えられた。変性肝細胞は中心静脈周囲領域に限定して観察され、この領域ではストレス応答性の転写因子とその下流の抗酸化分子の発現が増加しており、細胞防御反応が起こっていることがわかった。モデルラットの肝臓における酸化ストレスは、中心静脈周囲に特有の肝細胞の働きと密接に関連しているものと考えることから、肝細胞の代謝に着目して解析を行った。 このモデルラットは通常飼育のラットに比べ、摂餌量が増加する一方で体重は増加せず、末梢血液中のトリグリセリドが低下し、肝細胞内の中性脂肪は増加しなかった。中心静脈周囲領域に発現する脂肪酸代謝に関わる分子の発現の解析から、脂肪酸の消費が高まっていると考えられた。モデルラットでは、肝臓の脂肪酸代謝が大きく変化することが酸化ストレスの原因となり、これに対する防御反応が起こっているものと推察された。一方で肝細胞の一部に細胞死が起こることから、慢性的なストレスが一部の肝疾患のリスク因子となる可能性が示唆される。
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