研究課題
免疫関連因子PKR(double-stranded RNA-dependent protein kinase)はactinを分解するgelsolinとの結合を介し、細胞膜の安定性を高め、ウイルス等の侵入防御に関与することが明らかとなった。本申請は、PKRとactin結合タンパク質による細胞膜の機能調節解明を目的とし、特に、機能的な細胞膜構造である微絨毛を持つ小腸吸収上皮細胞に着目し、分子形態学的および超微形態学的解析を行う。具体的には、1.小腸吸収上皮細胞におけるPKRとactin結合タンパク質との相互作用、2.PKR変異に伴う小腸吸収上皮細胞の機能への影響、3.器官培養小腸を用いたPKR変異による微絨毛への影響、の3点について解析を行う。本年度は、以下の成果を得た。(1)マウス小腸組織におけるPKRおよびgelsolin、villinの相互作用を検討する目的で、免疫組織化学およびin-situハイブリダイゼーションを行い、各タンパクとm-RNAの組織上の局在について検討した。(2)PKRの変異による小腸吸収上皮細胞の変化を解析するための小腸器官培養系の樹立を行った。得られた培養小腸は形態のみならず、機能的にも生体における小腸と同様の特徴を現しており、in vitroにおいて小腸上皮を再現できる系であることが分かった。(3)細胞及び器官培養小腸に変異PKRを導入するためのウイルス作製を行った。これらの結果の一部は日本解剖学会、日本臨床分子形態学会、日本顕微鏡学会九州地方会において報告を行った。現在までにPKRとその結合タンパク質との相互作用や、PKR変異導入に用いるウイルスの作成、器官培養小腸の作成法の樹立やなど、PKRが小腸上皮において果たす役割の解明につながる準備を進めることが出来た。
3: やや遅れている
本研究で解析するのは、以下の3項目である。①小腸吸収上皮細胞におけるPKRおよびgelsolin、villin、actinの相互作用②PKR変異細胞を用いた小腸吸収上皮細胞の機能への影響③PKR遺伝子を導入した器官培養小腸を用いた小腸上皮細胞の膜構造への影響現在、上記3項目のすべてに関わる導入用の遺伝子やウイルスの作成、タンパク質相互作用の評価システム、および小腸の器官培養系の樹立などを達成することができた。これらにより、十分に物質的、技術的な準備を整えることができたと考えている。しかしながら、今年度エレクトロポレーションによる遺伝子導入がうまくいかず、ウイルスによる遺伝子導入へと切り替えたため、計画には遅れが生じている。また小腸上皮細胞の機能評価のための実験系の樹立にも遅れが生じている。そのため、進捗状況としてはやや遅れているものと考える。
今後は、作製したウイルス及び検証した抗体、in-situプローブを用いて、形態学的な評価および小腸吸収上皮細胞の機能的な評価システムの構築に取り組む予定である。実験計画に一部遅延した項目が生じているが、全体の実験を進める上で支障はなく、研究計画自体の変更については予定していない。作製した遺伝子導入のためのウイルスを用いて、変異PKRを導入することによる変化について調べてゆく予定である。電子顕微鏡による形態観察については時間を要する研究項目でもあるため、引き続き、研究協力者の協力を得ながら進めて行く。研究の推進方策として、今年度準備が整った物質的・技術的な環境を用いて、引き続き、本研究の目的のうち、特に、②PKR変異細胞を用いた小腸吸収上皮細胞の機能への影響、③PKR遺伝子を導入した器官培養小腸を用いた小腸上皮細胞の膜構造への影響、の2項目について研究を進めていく予定である。
細胞培養用試薬をまとめ買いしたことにより予定より安価に購入ができたため。
次年度の細胞培養用試薬の購入に使用する。
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巻: 31 ページ: in press
http://www.uoeh-u.ac.jp/University/dept/medicine/2kaibo.html