昨年度の研究により,サイトカインシグナルが,過敏性腸症候群(IBS)の実験動物モデル[反復water avoidance stress(WAS);慢性精神ストレス]で見られる内臓知覚過敏に関与することが示された.そこで一般臨床で広く使われている薬剤で,抗サイトカイン作用を持つものが,IBS治療に使用できるのではないかと仮説を立て実験を進めた.リラグルチドはGLP-1のアナログで,糖尿病治療に広く使われているが,血糖コントロールの他に,抗炎症作用を持つことが知られている.そこで,IBSモデルで,その効果を確かめてみた.その結果,リラグルチドは,WASによる内臓知覚過敏を阻止することが明らかとなった.またその効果はNOを介するものであり,サイトカイン産生を抑制してその作用を発揮していると考えられた.本研究はJournal of Gastroenterology and Hepatologyに採択された.さらにロバスタチンも高脂血症治療薬として,広く使用されているが,抗サイトカイン作用を持つことが知られている.そこでリラグルチドと同様の系で,その効果を確認してみたところ,ストレスによる内臓知覚過敏を抑制することが示された.この作用はHMG-CoA reductaseの阻害,NO,オピオイド受容体を介する作用で,サイトカインシグナルを抑制することにより効果を発揮していることが示唆された.本研究も,European Journal of Pharmacologyに採択された.さらにメトフォルミンについても同様の検討を行い,IBSモデルで内臓知覚過敏を阻止することが明らかとなった.この研究は現在論文として投稿中である.以上のように,本研究は,現在臨床で広く使われているリラグルチド,ロバスタチン,メトフォルミンが,IBSにも効果を示す可能性を指摘し,これら薬剤のIBS治療の臨床応用への道を開くことができたと考えている.
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