研究課題
研究代表者が確立した不均一収縮心筋モデルにおいては、収縮期の受動的な伸展に引き続いた弛緩期の短縮によって収縮蛋白からカルシウム解離が起こり、この解離カルシウムがカルシウム波を誘発する。活性酸素は筋小胞体からのカルシウム放出を促進することが報告されているため、受動的な伸展による局所的な活性酸素の産生が、カルシウム波の伝播を促進するかどうか、催不整脈性に影響するかどうかを明らかにした。更に、過酸化水素の局所潅流によって、不均一収縮時と同じような現象が認められるかどうかを明らかにした。1)ミオシンATPase阻害薬であるブレビスタチンを局所潅流し、不均一収縮モデルを作製したところ、ブレビスタチンの局所潅流により収縮期に伸展を示した領域において、局所的にDCF蛍光(活性酸素)が増加した。このブレビスタチンの局所潅流はカルシウム波伝播速度を増加させ、催不整脈性を亢進させた。2)BDMに過酸化水素を加えた溶液を心筋の局所領域に潅流し、BDMの局所潅流によって誘発されるカルシウム波及び不整脈と比較した。局所潅流液に過酸化水素を加えることにより、カルシウム波伝播速度が増加し、催不整脈性が亢進した。更に、カルシウム波の伝播領域に過酸化水素を局所潅流したところ、カルシウム波伝播速度が増加し、催不整脈性が亢進した。以上より、不均一収縮を呈する心筋においては、収縮力の低下した伸展領域において活性酸素が局所的に増加し、この活性酸素の増加がカルシウム波伝播速度の増加と催不整脈性の亢進に関与することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、心筋梗塞などの不均一収縮を呈する心筋において、局所的な活性酸素の産生が生じるのか、更にその活性酸素の産生がカルシウム波の動態や再不整脈性に関与するのかのを明らかにすることを目的としている。現時点において、不均一収縮心筋においては局所的に活性酸素が産生されること、この活性酸素の産生が催不整脈性に関与することを明らかにしているため、実験経過は順調であると考えている。
1)心不全モデルを作成し、活性酸素の産生量、病理学的に計測した障害部位の大きさ、カルシウム波伝播速度を記録し、不全心筋において不均一収縮が活性酸素を産生し、カルシウム波伝播速度の増加に関与することを明らかにする。2)NADPH oxidase(NOX2)をノックアウトしたマウスは多くの研究で使われており、本研究課題の解明にも有用である。しかし、マウスでの不均一収縮モデルは未だ確立しておらず、しかも実験に使用可能なトラベクラは8匹に1個程度と報告されている(Stuyvers BD, et al. J Physiol 2002;544.3:817-830)。そこで、マウスの乳頭筋を用いた不均一収縮モデルを確立することにより、今後のNOX2ノックアウトマウスを用いた研究に備える。
平成28年度の実験計画ではラットに加えてマウスの実験も予定してしる。マウスでは多細胞心室筋であるトラベクラが8匹に1個と報告されており、大量にマウスの購入が必要と考えられたため、28年度に持ち越すこととした。
マウスの購入に使用する予定である。
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