研究課題/領域番号 |
26460290
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 倫子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60332178)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シナプス / 膜融合 / 開口放出 / インスリン / 蛍光色素 / 2光子励起 / 内分泌 |
研究実績の概要 |
生体標本でtrans-SNARE とcis-SNARE を区別して定量する方法を初めて確立し、論文報告した(Nature Commun.2015 Takahashi et al.)。ラットの大脳皮質単離培養標本にSyntaxin1 のC末(細胞外領域)とVAMP2のC末(顆粒内領域)に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を起こす組合わせの色素を結合させ、蛍光寿命計測系を用いて分子間複合化率を測定した。膜融合後に形成されるcis-SNARE複合化量を選択的に検出でき、神経終末で約20%と推定された。一方、両分子のN末(共に細胞質領域)を標識し、FRETを計測すると、cis-SNARE と trans-SNARE 双方の形成量が反映され、神経終末で約30%の複合化率が示された。この差にあたる10% こそが膜融合の準備過程を形成するtrans-SNARE の形成率を反映すると考えられた。この測定法を差分法(subtraction method)と名付けた。一方、軸索と神経終末の間のシグナルを比べると、C末標識の際(cis-SNARE 複合化の検出)には両者に差がなく、N末標識時には10%の差があったことから、cis-SNARE はブートンで形成後、素早く軸索に拡散することが予想され、Sucrose刺激実験でその動態を観察した。テトロドトキシン処理により神経活動を止めると、軸索の複合化率が処理時間依存的に減り、trans-SNARE の形成量は不変であった。以上より、軸索と神経終末のFRETシグナルの差からtrans-SNARE 形成量を割り出すことが可能となり、勾配法(gradient method)と名付けた。インスリンを分泌する膵島の他、PC12細胞でも安静時のシグナルを検討し、顆粒膜に発現するVAMP2を巻き込む複合化は少ないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シナプス前終末と内分泌細胞の間には、放出速度の違いが大きくあるが、SNARE分子の複合化様式や程度の違いにより一部説明できる結果を得た。内分泌組織では安静時SNAREの複合化率が極めて少なく、分泌過程においてその変化が観察できると考えられ、その実験系を並行して構築中である。さらに、神経細胞ではSNAP25の複合化においてリンカーを介した多量体形成が示唆されるデータがあり、こちらもFRETや電気生理の実験結果が得られ、論文準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
シナプス前終末においてSNAP25 リンカー領域を介した多量体形成を論文作成にあたり、必要な追加実験を行うとともに、膵島・PC12細胞などにおける分泌刺激後に起こるSNARE複合化生成につきケイジドカルシウム試薬と蛍光寿命測定法を組み合わせた新しい実験系を構築し、知見を集める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度後半は、ウィルスベクターを新規に作製する必要が少なくなり、分子生物学試薬や細胞培養用品などの消耗品の消費が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は論文投稿の追加実験に際し、SNAP25欠損マウスを用いた実験を再開する可能性が高く、その際には細胞培養の消耗品費用が今年度より増えると見込まれる。また、蛍光寿命測定法と紫外線照射の併用実験系を新規に構築するため、新たな光学系を作る必要があり、その際に光学部品を新調する可能性が高く、これらの購入に向けて活用する。
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