研究課題/領域番号 |
26460291
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
藤井 拓人 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (50567980)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 癌 / 生理学 / 細胞・組織 / Na,K-ATPase / 容積感受性外向き整流性アニオンチャネル / 膜マイクロドメイン |
研究実績の概要 |
我々は、癌細胞において、Na,K-ATPaseのイオン輸送を阻害しない低濃度(nMレベル)のウアバインが、細胞容積調節に寄与する容積感受性外向き整流性(VSOR)アニオンチャネルを活性化することで増殖抑制を引き起こすことを見出した。本研究では、癌細胞と非癌細胞の膜マイクロドメインにおけるVSORチャネル構成因子や調節因子の差異に着目した研究を行い、癌特異的なNa,K-ATPase/VSORクロストークの分子メカニズムを明らかにすることを目指している。前年度の研究において、Na,K-ATPaseとLRRC8Aにより構成されるVSORチャネルが共に膜マイクロドメインに分布し機能共役している可能性が示唆された。本年度は主に以下の成果を得た。 (1)ヒト癌細胞において、methyl-β-cyclodextrin (MβCD)処理により膜マイクロドメインを破壊したところ、Na,K-ATPaseの86Rb+輸送活性は有意に上昇した。MβCD処理により、ウアバインによるVSORアニオンチャネル電流の活性化は有意に阻害されたが、低浸透圧刺激による細胞膨張時に活性化されるVSORチャネル電流は阻害されなかった。また、MβCD処理により、ウアバインによる細胞増殖抑制効果は有意に減弱した。従って、ウアバインは癌細胞の膜マイクロドメインに存在する非イオン輸送型Na,K-ATPaseに結合することでVSORアニオンチャネルの活性化および抗癌作用を引き起こすことが示唆された。(2)非癌細胞のヒト胎児腎臓由来HEK293細胞では、LRRC8AをノックダウンしてもウアバインによるVSORアニオンチャネルの活性化および抗癌作用は見られなかった。(3)低濃度ウアバインが、癌細胞におけるグルコーストランスポーター1の原形質膜での発現レベルおよびグルコース取込み量を顕著に抑制することを見出した。(4)VSORチャネル阻害剤DCPIBがH,K-ATPase活性を抑制することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度のLRRC8A siRNAを用いたノックダウン実験および抗LRRC8A抗体を用いた膜マイクロドメイン単離実験、本年度に行ったMβCDを用いた膜マイクロドメインの破壊実験、また一連の癌細胞と非癌細胞での比較実験より、癌細胞の膜マイクロドメインには、「Na,K-ATPase-NADPH oxidase(NOX)-VSOR(LRRC8A)シグナロソーム」が特異的に形成されていることが強く示唆された。また、癌細胞において、ウアバインによるVSORアニオンチャネル活性化は、膜マイクロドメイン構造に依存するのに対し、低浸透圧刺激による細胞膨張時のVSORチャネル活性化は、膜マイクロドメイン構造に非依存的であり、両活性化機構が明らかに異なることも明らかとなった。抗LRRC8A抗体の作製、LRRC8A全長クローニングに加え、癌細胞および非癌細胞における高効率なLRRC8Aノックダウン系の構築も完了していることから、今後行う予定である癌細胞の膜マイクロドメイン特異的なVSORチャネル構成分子や制御分子の探索に向けた準備は整っている。また、本年度の研究において、低濃度のウアバインが癌細胞の糖吸収を顕著に抑制することも見出した。この結果は、ウアバインが癌細胞特有の好気的解糖によるエネルギー産生システムを抑制する可能性を示唆している。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の研究を行い、癌細胞の膜マイクロドメイン特異的なVSORアニオンチャネル構成因子や調節因子およびNa,K-ATPase/VSORチャネルのクロストーク関連分子を明らかにすることで、癌細胞膜マイクロドメインにおける「Na,K-ATPase-NOX-VSOR(LRRC8A)シグナロソーム」の全容解明を目指す。 (1)癌細胞の膜マイクロドメインおよび非膜マイクロドメインを分別調製し、抗LRRC8A抗体および抗Na,K-ATPase抗体を用いた免疫沈降実験を行い、それぞれの画分における両者の分子会合の可能性について検討する。非癌細胞においても同様の検討を行う。(2)癌細胞と非癌細胞から調製した膜マイクロドメインおよび非膜マイクロドメインにおいて、抗LRRC8A抗体を用いた免疫沈降およびプロテオミクス解析を行うことで、癌細胞の膜マイクロドメインに特異的に存在するLRRC8A以外のLRRC8アイソフォームおよびVSORチャネル関連分子を探索する。(3)同定した候補分子について、癌細胞においてノックダウンもしくは非癌細胞において過剰発現系を作製し、ウアバインによる効果の変化を検討する。(4)同定した候補分子がチャネルのポア構造を持つと推定される場合、変異導入実験およびノックダウン実験を行い、VSORチャネルの機能発現に必須か否かについて検討する。(5)癌細胞株および癌移植モデルマウスを用いて、各種VSOR関連分子のノックダウンおよび阻害剤の効果を検討する。(6)ウアバインによる癌細胞のエネルギー産生システム抑制メカニズムを明らかにする。また、上記シグナロソームの関与について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は527円が余ったが、これは研究計画の変更や進行状況の変化等によるものではなく、527円以下の物品の購入を希望しなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、物品請求費の一部として活用する予定である。
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