研究実績の概要 |
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)ファミリー(クラスI,II,III)は細胞膜においてリン脂質のイノシトール環3位をリン酸化する酵素であり、クラスI は受容体シグナル伝達、クラスIII はオートファジーにおいて重要な役割をはたす。応募者は、これまで機能が不明であったクラスII 型PI3K が、血管内皮においてリン脂質PI(3)P を産生することによってメンブレン・トラフィックを制御し、内皮機能に必須であることをノックアウトマウス技術を駆使して解明した。細胞内膜のPI(3)P レベルは、PI3K のみならずPI(3)P ホスファターゼによって決定される。しかし、PI(3)Pホスファターゼの実体は不明であった。本研究では、細胞生物学、マウス個体生物学等の幅広い技術を駆使して、PI(3)P ホスファターゼを同定してその作動機構を明らかにし、内皮におけるPI(3)P を介したメンブレン・トラフィック制御機構の解明を進めてきた。 本年最終年度は、前年度までの成果をもとに内皮バリア機能が障害されている内皮特異的PI3K-C2α欠損マウスを、新しい動脈硬化症モデルマウスとして確立するために、従来の標準モデル(ApoE欠損マウス)と比較検討した。その結果、従来モデルであるApoE欠損マウスに高コレステロール飼料を与えると、動脈硬化プラークが12~16週間要して形成されるが、内皮特異的C2α/ApoE二重欠損マウスにおいては8週間後、ApoE欠損マウスと比べて約2倍強のプラーク過形成を呈した。更にin vitro実験系において、PI3K-C2α酵素によるPI(3)P産生を負に制御する脂質ホスファターゼとしてミオチュブラリン様タンパク質(MTMR)を同定し、PI3KC2α-MTMR系によるPI(3)P依存的な内皮バリア調節機構を明らかにした。
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