研究課題/領域番号 |
26460293
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
秋田 天平 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (00522202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 胎生期 / 大脳皮質形成 / 神経発達制御機構 / 細胞移動 / 細胞間情報伝達 / パッチクランプ / GABA |
研究実績の概要 |
本年度は大脳皮質形成期にあるマウス胎仔(E14-E16)終脳内の神経細胞のうち、腹側基底核原基より皮質内を接線方向に移動するGABA作動性介在神経細胞の前駆細胞を研究対象とし、スライス切片中の腹側基底核原基から急性単離した細胞に対しホールセルパッチクランプ法を適用して、統合失調症発症脆弱性因子として知られているNeuregulin 1 (NRG1)の作用により活性化されるアニオンチャネル及び同時に抑制される外向整流性カリウムチャネルの種類を同定する予定であった。しかし、本年度も他大学研究者と共同で進めている他の研究課題の検討に追われ、それらのチャネルの種類を確定するに足るまでの検討を進めることができなかった。次年度に改めて検討を進めたい。 一方で、昨年度末の日本解剖学会・日本生理学会合同大会にて、本研究代表者が主催したシンポジウム「神経発達制御機構研究の新たな潮流」が大変好評だったことを受け、本年度はThe Journal of Physiological Sciences誌の編集長からの依頼で総説執筆の機会を得て、出版することができた。本研究代表者は総説の責任著者としてシンポジウム各演者に分担執筆を依頼し、その一人として本研究代表者は、胎生期大脳皮質発達過程での神経細胞移動におけるイオンチャネルの役割について、特に細胞容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)の役割を中心に、これまでの研究成果及び本研究課題での検討を基に議論を行った。また、イオンチャネルとともに、他の分担執筆者により議論された軸索誘導因子・細胞内情報伝達系・転写因子を介する神経系の発達制御機構が、循環系にも一部共通して認められることについても例示し、本研究課題の意義の1つである、全ての器官系の組織構築において普遍的に成り立つ細胞移動現象の基本作動原理を捉えなおす可能性についても議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度も他大学研究者と共同で進めている他の研究課題について、先行論文が9月に発表されてしまい、それまでに我々が積み上げてきた研究成果に急遽新たな検討結果を追加して早急にまとめ上げる必要が生じたことから、その研究課題に係りきりになってしまい、残念ながら本研究課題を十分に推し進めることができなかった。その共同研究の成果は既に論文に取りまとめ、現在学術誌に投稿中である。今後追加検討を求められる可能性はあるが、一通りの結論は出ていることから、早急に発表にこぎつけ、本研究課題を再び進展させたい。
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今後の研究の推進方策 |
先ずGABA作動性神経前駆細胞でNRG1の作用により活性化または抑制されるイオンチャネルの種類を最終的に確定する。そして、それらの変化により誘起される細胞膜電位変化を膜電流固定法により測定する。但し、塩素イオン透過型のアニオンチャネル開口の膜電位への影響は細胞内塩素イオン濃度に大きく依存することから、1価陽イオンにのみ透過性を持ち塩素イオンは透過しないグラミシジンを含む電極内液を用いたパッチクランプ法を適用することにより、細胞本来が有する細胞内塩素イオン濃度を維持した状態で膜電位変化を計測する。また、同法適用下でGABAA受容体塩素イオンチャネル開口時の逆転電位から細胞内塩素イオン濃度が計測可能なことから、NRG1作用前後にGABAA受容体作動薬を投与することにより、NRG1作用が細胞内塩素イオン濃度を変化させる可能性についても注目し、変化が認められた場合はそれを担うトランスポータの種類を同定する。さらに、NRG1作用による細胞内カルシウムイオン濃度変動の有無についてもライブセルイメージングにより観測し、変動が認められた場合はカルシウム供給源や除去機構の同定、及びその変動に対するイオンチャネル阻害の効果も検討する。 続いて、これらのイオンチャネル・トランスポータの神経細胞移動における機能的意義を明確にするため、胎生脳スライス切片内のGABA作動性神経前駆細胞に対し、それぞれのイオンチャネル・トランスポータ遺伝子のshRNA又はCRISPR/Casベクターを蛍光蛋白ベクターとともに電気穿孔法により導入し、それらの遺伝子発現を抑制した状態でスライス培養することで、蛍光蛋白標識された神経細胞の移動や形態がどのように変化するかを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記11の理由により、本年度もスライス培養による神経細胞移動の評価が出来なかったことから、その培養実験に必要な諸物品の購入を見送ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度請求分は元来消耗品費・旅費・人件費・その他の支出に充てる分なので、その請求分は次年度予定通り使用し、スライス培養実験を開始する目途が付いた時点で、その実験に必要な諸物品の購入に前年度未使用分を用いる予定である。
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備考 |
なし
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