研究課題/領域番号 |
26460295
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
豊田 太 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (90324574)
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研究分担者 |
松浦 博 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (60238962)
林 維光 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (80242973)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 心臓 / 電気生理学 / 心筋細胞 |
研究実績の概要 |
洞房結節は心臓のペースメーカー領域であり、自発的に活動電位を発生する細胞群で構成されている。本研究は、これらペースメーカー細胞に特異的に記録される持続性内向きナトリウム電流(Ist)の分子基盤を確立することを目的としている。我々は、L型カルシウムチャネルのCav1.3を遺伝的に欠損したマウスにおいては、洞房結節細胞のIstが消失していることを見出している。このことはCav1.3がカルシウム電流だけでなく、ナトリウム電流も担う可能性を示唆しているが、これまでにクローニングされているCav1.3を異種性に発現させてもIstに類似した電流を誘発できない。一方、次世代シーケンサーを用いて洞房結節に発現するCav1.3遺伝子産物を網羅的に解析したところ、いくつかのバリアントの存在が示唆されたものの、その検出率は極めて低くIstとの関連は未だ不明である。 H26年度の本研究においては、洞房結節内のIstの機能的発現分布の不均一性に着目し、Istを発現する単一細胞を供してPCR法(単一細胞PCR法)を施しIstの背景となりうるCav1.3遺伝子産物の同定を試みた。難易度の高い方法でもあり、現在までにIstと関連しうるバリアントを検出するには至っていない。しかしながら、特異的プライマーを磁気ビーズで修飾することにより、精度の高い単一細胞PCR法が確立されつつある。また、Cav1.3ノックアウトマウスの洞房結節細胞を用いたパッチクランプ実験を行い、Cav1.3とIstとの関連性を示す実験結果が再現されることを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度の本研究の主たる目的は、洞房結節におけるCav1.3レアバリアントの存在を単一細胞PCR法で確認することであった。Istとの関連の深いバリアントを同定するという最終的に期待される結果には至っていないものの、技術的に難易度の高い単一細胞PCR法を確立しつつあり、今後の研究の進展に望みを残すことができた。さらに、Cav1.3ノックアウトマウスを用いた実験において、Cav1.3とIstとの関連性を示すデータをさらに充実できたことは、本研究計画の遂行を正当化する意味で大きな進展である。全体として、今後の研究の方向を左右する大きな発見はなかったが、当初計画した研究内容は概ね遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、単一細胞PCR法の技術精度をさらに高め、Cav1.3バリアントの探索と同定を継続的に行うとともに、当初申請したH27年度の研究計画を遂行する。すなわち、培養心筋細胞(マウス心房筋HL-1細胞やiPS誘導心筋細胞)におけるCav1.3とIstの機能的相関を確立することが目的となる。 具体的には、「培養心筋細胞におけるCav1.3レアバリアントの同定、ならびにパッチクランプ法によるIstの存在の確認」が当面の目的となる。これらの培養心筋細胞は自発的に拍動を示すものの、元来洞房結節由来ではないため、Istが存在しない可能性がある。その場合、転写因子の導入によって洞房結節細胞への分化誘導を試み、Istの発現制御を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度の直接経費の未使用額が生じた理由は、主として以下の2点があげられる。1)研究の進捗に応じて次世代シーケンサー解析(約45万円)を予定していたが、未だそこに踏み込みうるポジティブな実験結果が得られていない。2)パッチクランプ実験に必要なシステムが経年劣化してきており、データ収集、解析装置の更新を予定(約40万円)していたが、機種の選定に遅延が生じたため納期が次年度に至ってしまった(H27年度6月納品予定)。その他、論文発表の遅れならびに実験に使用する消耗物品(実験動物や試薬)の準備状況が慢性的に遅れがちになっていることも理由にあげられる。 尚、これらの遅延は、全体として研究目的の遂行に大きな支障をきたしていないものの、次年度において適宜執行する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
パッチクランプデータ収集装置は既に発注済みであり、H26年度の未使用予算の一部はこれにあてる予定である。また、それ以外は次世代シーケンサー解析や論文発表などに適宜使用することを見込んでいる。このように、H26年度の未使用予算は当該年度予定してた事項に使用すること基本とし、H27年度に予定した研究計画については次年度分として請求した予算を用いて遂行する予定である。
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