心臓の洞房結節細胞に特異的に観察される持続性内向きナトリウム電流(Ist)は、心拍リズムの形成に重要な役割を果たすことが示唆されている。しかしながら、Istを担うチャネル分子は同定されておらず、その生理的意義を直接的に調べることが困難な状況である。本プロジェクトでは、Istの薬理学的性質がL型カルシウム電流のそれとほぼ共通していることに着目し、L型カルシウムチャネルがIstの発生に関与する可能性について検討してきた。これまでに、1)ホールセルパッチクランプ法と単一細胞PCR解析により、モルモット洞房結節細胞におけるIstの電流量は構成するL型カルシウム電流の大きさとそれを構成するCav1.3遺伝子発現と相関することを発見した。さらに、2)Cav1.3遺伝子を欠損したマウスの洞房結節細胞ではIstがほぼ完全に消失していることを見出した。これらの結果から、Istの発生にCav1.3が寄与することが明らかとなり、本成果を論文発表した。しかしながら、既知のCav1.3クローンを異種性に発現させてもカルシウム電流のみが誘発され、Istのようなナトリウム電流は発生しない。そこで、本プロジェクトでは期間を1年間延長し、洞房結節組織から得られたCav1.3のPCR産物を次世代シーケンシングやフラグメント解析に供してバリアントフォームを探索してきた。しかしながら、ナトリウム透過性をもたらすCav1.3のRNA編集あるいはスプライスの存在は確認できなかった。一方、我々はIstの活性の細胞内カルシウムを示す実験的証拠を得た。このことは、Cav1.3の活性化に伴う細胞内カルシウムの上昇が何らかのナトリウムチャネルを活性化することでIstが発生する可能性があると考えられた。現在、洞房結節に発現するカルシウム活性化型ナトリウムチャネルTRPM4とIstの関係について検討を始めている。
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