研究課題
現在日本の死亡率の約30%が悪性新生物による死亡である。本研究代表者も癌治療に取り組み、従来の抗がん剤の放射線治療とのコン ビネーションや、造血幹細胞移植を併用した癌幹細胞を標的としたHigh doseの抗がん剤治療を臨床において行い、成果を報告してき ている。しかし実際、如何に抗がん剤を駆使しても、一部のpopulation が残存し、再発するケースがほとんどである。その原因に癌 幹細胞の薬剤抵抗性があげられる。癌幹細胞は細胞分裂が緩徐であり、また薬剤排出輸送体であるMDRの発現が多い事がその原因とな ること、また癌細胞集団のより血流の悪い低酸素、低栄養環境に順応し抗がん剤の物理的に届きにくい部位に存在することが明らかと なっている。低酸素・低栄養環境において、癌細胞では酸化的リン酸化よりも解糖系が亢進していることが明らかとなっている(Warb urg 効果)。そのような代謝の変化により癌の周囲において乳酸増加が原因となり、細胞外環境が酸性である事が明らかとなっている 。酸性環境においても癌の細胞内pHは正常細胞と同様に維持されていることが明らかとなっており、癌における酸排出機構の亢進が示 唆される。本研究者は、癌の細胞内pHがより高く維持されていることを確認している。また癌の分化度の違いと酸排泄イオン輸送体の 発現に明らかな差があることを認め、報告してきており、またその阻害剤がイオン輸送体発現に依存して、効果を発揮している事を報 告している。また一部の癌においてはイオン輸送体を阻害しても他のイオン輸送体の機能が亢進し、を維持する機構が存在することを 明らかとしている。 本研究において癌細胞の細胞内pHの維持機構について癌細胞と、癌幹細胞においての差異の有無を明らかとするため、各癌細胞より 癌幹細胞を単離抽出し、細胞内pH制御の差異を検討する。
2: おおむね順調に進展している
胃がん細胞株(MKN28,MKN45)、肺癌細胞株(A549、H1259)、を用いて、low attachmentフラスコ内で特殊精製培地と、各種growth factorの添加により、癌幹細胞の分離と、癌幹細胞であることの確認にreal time PCR、flow-cyto analysisで確認した。その後各細胞内pHの差異の検討を行い幹細胞において細胞内のpHの上昇とその上昇にはCA9 の関与が明らかとなった。このCA9の阻害により癌幹細胞のpHの低下と親株同等の腫瘍増殖抑制効果を示すことを見出した。同時に細胞内のpHの変化に伴い細胞内のミトコンドリア活性の差異についても明らかとした。
今後、患者よりの手術検体を用いて同様の変化が認められるかを確認し、新たな治療戦略となりうることを証明していく。
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