研究課題/領域番号 |
26460303
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
倉田 康孝 金沢医科大学, 医学部, 教授 (00267725)
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研究分担者 |
芝本 利重 金沢医科大学, 医学部, 教授 (90178921)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | システム生理学 / 非線形力学 / 分岐理論 / 生物・生体工学 / 生物物理 |
研究実績の概要 |
平成27年度の計画は、1)ヒトES/iPS細胞由来心筋細胞の電気生理学的特性を経時的に解析して、その分化成熟過程での変化を明らかにすること、2)幹細胞由来心筋ペースメーカー細胞の非線形力学系モデルを構築し、そのパラメータ依存性分岐構造を解析して、ペースメーカー細胞における自動能発現の非線形力学的機序を解明することであった。 成人ヒト心筋細胞モデル(Kurata 2005、Grandi 2010、O’Hara 2011モデル)をベースとし、ワークステーションおよび数値シミュレーション用ソフトウェアMATLABを用いて、モデル細胞の分岐構造を解析するためのプログラムを作成した。電気生理学的データを基に、各ヒト心筋細胞モデルにおけるイオン輸送系のパラメータを調整して、自動能を示す洞結節型ペースメーカー細胞モデル(連立非線形常微分方程式)の作成を試みた。Kurata 2005モデルでは内向き整流K+チャネル電流(IK1)の抑制のみで自発性活動電位が発現し、さらに過分極活性化陽イオンチャネル電流(If)を組み込むことにより「ヒト幹細胞由来ペースメーカー細胞」の活動電位を再現する新たな非線形力学系モデルを構築することができた(他のモデルではIK1抑制とIf導入で自動能を再現することはできなかった)。さらに、心筋細胞の分化成熟過程における各イオン電流の変化をパラメータの変化としてシミュレートし、モデル細胞の定常状態・周期軌道とその安定性のパラメータ依存性変化を表す分岐図を作成した。得られた分岐図からモデル細胞のパラメータ依存性分岐パターンを解析した結果、分化成熟過程における自動能発現は主に「L型Ca2+チャネル電流による平衡点の不安定化」に起因しており、If電流は必須ではないと結論された。ペースメーカー細胞モデルの開発により、組織モデル構築とバイオペースメーカーシステム設計が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度中に、電気生理学的特性解析データを基にした新たなヒト幹細胞由来洞結節型ペースメーカー細胞モデルを作成することができた。さらに、モデルペースメーカー細胞(非線形力学系モデル)の分岐構造を解析するためのMATLABプログラムを構築してモデル細胞の分岐構造を解析し、自動能発現の非線形力学的機序を解明することができた。このように平成27年度当初の研究到達目標はほぼ達成されており、本研究全体として順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、改良型ヒト幹細胞由来心筋ペースメーカー細胞モデルを作成して分化成熟過程での自動能発現の非線形力学的メカニズムを比較検証するとともに、前年度に作成したペースメーカー細胞モデルとヒト心室筋細胞モデルを連結した多細胞・組織モデルを構築し、バイオペースメーカー細胞における自動能のロバスト性と心室ドライブ機能を検証して、実用的バイオペースメーカー開発のためのシステム設計を行う。 平成28年度の解析ではモデルシステムのスケール(次元数)拡大とそれに伴う数値計算時間の大幅な増大が予想され、解析効率(数値計算速度)を飛躍的に向上させるための方策が必要である。そこで、本年度研究費(消耗品費等)の一部を次年度に繰り越し、繰越分を含めた研究費を主にハードウェア(ワークステーション)のスペック向上(メモリとGPUの増設)とソフトウェアの拡充(GPUを利用した高速数値計算用MATLABツールボックスのバージョンアップ)に充てる予定である。また、生理学および循環器学関連学会において一連の研究成果を発表するとともに、英文論文を一流誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に予定している多細胞モデルの解析では、モデルシステムのスケール(次元数)拡大により、数値計算時間の大幅な増大が予想される。それに対処するためには、解析効率(数値計算速度)を飛躍的に向上させるための方策(一部のワークステーションに対するメモリ増設・GPU追加)が必要である。メモリおよびGPUは高価であり、これらを購入するために、本年度研究費(消耗品費)の一部を次年度に繰り越して使用する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
一部のワークステーションにメモリ増設とGPU(数値演算システム)追加を行い、解析効率(数値計算速度)の飛躍的向上を図る。
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