研究課題/領域番号 |
26460304
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
村井 恵良 久留米大学, 医学部, 准教授 (40322820)
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研究分担者 |
田中 永一郎 久留米大学, 医学部, 教授 (80188284)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 統合失調症 / オキシトシン / シナプス応答 / パッチクランプ法 |
研究実績の概要 |
本研究はオキシトシン及びその関連物質の統合失調症新規治療薬としての可能性を探ることを目的としている。統合失調症発生に関与する前頭前野、腹側被蓋野、及び扁桃体を含むラット脳スライス標本及び各部位の機械的単離ニューロンからパッチクランプ法を用いて電気生理学的記録を行い、その神経活動に対するオキシトシンの作用を検討している。 正常ラットの前頭前野、腹側被蓋野、及び扁桃体ニューロンを対象として機械的単離ニューロンを用いた実験を行い、オキシトシンを灌流投与することで発生する膜電位変化を検討した結果、全ての部位で静止膜電位がほとんど変化しなかった。このことは全ての部位において静止状態での神経活動に対してはオキシトシンの直接作用はほとんどないことを示唆する。同様に静止膜電流に対するオキシトシンの効果も検討した結果、膜電位記録時と同様にオキシトシンによる直接作用はなかった。スライス標本を用いた実験も検討した結果、単離ニューロンの結果と同様に静止膜電位及び膜電流に対するオキシトシンの直接作用は記録されなかった。次に、シナプス電流に及ぼす作用を検討した結果、前頭前野ニューロンから記録した興奮性シナプス後電流はオキシトシンにより増強され、抑制性シナプス後電流はほとんど変化しなかった。腹側被蓋野ニューロンにおいては、興奮性シナプス後電流に対するオキシトシン作用は観察されなかったが、抑制性シナプス後電流に対する増強作用が観察された。扁桃体ニューロンでは、興奮性シナプス後電流に対するオキシトシンの作用はほとんど観察されなかったが、抑制性シナプス後電流に対する増強作用が記録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
急性単離ニューロンを用いた実験において、スライス標本から機械的刺激(振動)によって細胞を単離する際に単離ニューロンに付着する樹状突起の長さが短くなる傾向が強く、抑制性のGABA作働性シナプスブトンのみ付着している標本が多く作成される傾向が強かった。そこで、スライス標本のインキューベート時間の延長や機械的振動周波数を低下させるなどの対策を行って実験方法の改良を試みた結果、比較的長い樹状突起の付着した単離ニューロン標本の作成が可能になった。その結果、抑制性シナプス後電流と興奮性シナプス後電流の記録が以前より効率良く観察されるようになり現在に至っている。さらに、スライス標本を用いたwhole-cellパッチクランプ法によるシナプス応答に対するオキシトシン作用の検討も開始した。当初、スライス標本からの神経活動記録は、幼若な生後2週齢のラット脳スライス標本を用いて行っていた。結合組織等が少ないなどの利点によりシナプス電流記録の取得は比較的容易であるが、その電流量が小さく、頻度も少ない傾向が観察された。これは幼若ラットの脳においてはシナプス形成が未熟なためによるものではないかと考えられたため、よりシナプス形成が成熟している4~5週齢のラット脳スライス標本からの記録を始めた。その結果、幼若ラットのスライス標本に比べると記録の取得効率は若干下がるものの、シナプス応答の記録がよりはっきりとしている傾向が観察され、脳の発達とシナプスの成熟度に関連があると思われた。今後も引き続き、4~5週齢のラット脳スライス標本からの記録を検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前頭前野、腹側被蓋野、及び扁桃体を含むスライス標本を対象として、組織中の投射ニューロン及び介在ニューロンを対象にwhole-cellパッチクランプ法を用いてオキシトシンの直接作用、及びオキシトシンのシナプス電位(電流)に及ぼす作用を明らかにする。また、オキシトシンの阻害薬(L-368,899)を用いた検証実験も行う予定である。さらに、統合失調症モデルラットを用いて正常群とのオキシトシン作用を比較することで、統合失調症発生過程におけるオキシトシンの作用を解明していきたいと考えている。 統合失調症発現過程の原因の一つとして前頭前野のグルタミン酸作働性神経系機能低下によって引き起こされる過程があり、腹側被蓋野のドーパミン作働性ニューロンの活動低下及びGABA作働性ニューロンの活動低下が生じることで統合失調症症状が発生すると考えられている。当研究室では、前頭前野ニューロンにおいてDA/5HT投与によりGABA応答が抑制されることを確認しており、このDA/5HT応答に対するオキシトシン作用も検討できればよいと考えている。この過程にオキシトシンがどのように作用するのかを検討することは、新規統合失調症改善薬としてのオキシトシンの可能性をさらに高める結果を示唆できるものと信じている。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度購入予定のビブラトーム(7000smz,ショーシンEM)を当教室研究費(久留米大学)で購入することが可能となり,代わりに老朽化していた試薬測定用の電子天秤(MSU225P, ザルトリウス)を購入したために差額金額が生じた。H27年度使用額は計画どおり実験動物費や試薬等代金として使用したが、H26年度の差額金額が若干繰り越される形となった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度使用額は計画どおり実験動物費や試薬等代金として使用する予定である。
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