研究代表者はマクロピノサイトーシスという特殊なエンドサイトーシスによる大規模な細胞形質膜の回収が神経突起成長円錐の退縮や神経突起伸長の抑制に必須であることを世界に先駆けて発見した。本研究では、マクロピノサイトーシスによる膜動態変化依存的な神経回路形成機構を、分子、細胞、個体レベルで明らかにすることを目的とする。マクロピノサイトーシスの負の制御因子としてsyntaxin1Bを同定しているが、syntaxin1Bがどのようにマクロピノサイトーシスを制御しているかは不明である。また、成長円錐のマクロピノサイトーシスはカルシウム上昇によっても誘導されることをすでに報告済みであるが、その分子制御メカニズムは不明である。平成28年度には、syntaxin1Bの結合分子として見出した細胞内の小胞体のカルシウムチャネルである、IP3受容体(IP3R)のsyntaxin1B結合部位の機能解析を進め、この結合部位をGSTタグに融合したタンパク質を神経特異的プロモーターであるsynapsinIプロモーターによって神経特異的に発現するウイルスベクターの作製を行い、高力価のレンチウイルスベクターの作製に成功した。このウイルスベクターを用いて培養神経細胞に効率よくsyntaxin1B結合ドメインを発現させることに成功した。このsyntaxin1B結合ドメインはcoiled-coil構造を形成するが、この結合部位を培養細胞に発現させたところ、核へ移行することが判明した。また、coiled-coil構造を破壊する点変異を導入すると、核への移行が阻害されることが分かり、このsyntaxin1B結合部位がIP3Rの核への移行を制御するドメインであることが示唆された。また、IP3Rを介した小胞体からのカルシウム放出がマクロピノサイトーシスを誘導することを示唆するデータを得た。
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