研究課題/領域番号 |
26460311
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
岡田 泰昌 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部), その他部局等, 室長 (80160688)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 呼吸調節 / 呼吸リズム / 低酸素 / 換気応答 / グリア細胞 / アストロサイト / arundic acid / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
脳幹部での呼吸リズムの形成機構、低酸素応答機構におけるニューロンとアストロサイトの役割を解明するため、ラット摘出脳幹脊髄標本を用いた解析を行った。すなわち呼吸リズム形成の場である延髄pre-Botzinger complexの吻側端で脳幹を横切断し、吸息性神経出力を記録しつつ、カルシウムイメージングにより脳幹切断面からpre-Botzinger complex領域内の細胞活動を計測し、記録された細胞をニューロンとアストロサイトに分類した。ニューロンは、TTXにより特異的に抑制され、また、低カリウム状態では過分極してさらに抑制されるが、アストロサイトは、低カリウム状態に置くとアストロサイトに特異的に発現しているカリウムチャネルKir4.1を介した細胞外陽イオンの非選択的な細胞内流入が促進されるという特性を利用し、記録した細胞を高効率でニューロンとアストロサイトとに分類できるようにした。その結果、pre-Botzinger complex領域の吻側端レベルにおいて吸息性神経出力と同期した活動を示す細胞、すなわち、吸息性ニューロン、前吸息性ニューロン、吸息性アストロサイト、前吸息性アストロサイトを検出した。これら結果に基づいて、呼吸リズム形成は、呼吸性ニューロンと呼吸性アストロサイトとの相互作用によってなされるというコンピュータモデルを構築し、米国神経科学学会で発表した。 低酸素に対する呼吸応答機構でもニューロンとアストロサイトの相互作用が重要であると考え、その際のアストロサイトの役割を解明するため、無麻酔非拘束のマウスにアストロサイト活性化阻害薬arundic acidの投与前後での低酸素呼吸応答を解析した。その結果、低酸素刺激は、末梢化学受容体のみでなく、脳内のアストロサイトでも感知され、脳内呼吸ネットワーク興奮を介して換気を増強させることを見出し、論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルシウムイメージングにより記録した細胞をニューロンとアストロサイトに分類することは、重要な課題で、前年度から継続して様々な方法を試行錯誤しつつ、検討してきた。その結果、時間がかかったが、上記のように、TTXと低カリウム負荷を行うことにより、高効率でニューロンとアストロサイトに分類することができるようになった。その成果を踏まえ、呼吸に同期した多数のニューロンとアストロサイトの計測を行えており、研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、呼吸中枢での呼吸リズム形成過程に関わるニューロンとアストロサイトのイメージング実験を継続して行い、酸素化レベルを変えるなど様々な生理学的条件下でのデータを集積する。それらの実験データに基づいて、ニューロンとアストロサイトよりなる、より精緻な数理モデルを構築し、コンピュータシミュレーションを行い、イメージング実験の結果と合わせて、呼吸リズム形成過程におけるアストロサイトの役割を解明する。その成果に基づき、ニューロンとアストロサイトの相互作用による脳内情報処理機構の普遍的な理解を深めていく。 また、arundic acidは高度の低酸素負荷時の痙攣を抑えたことより、「てんかん患者の予期せぬ突然死」(SUDEP)に病態にはアストロサイトの活性化が関与していること、さらに、arundic acidは、SUDEPの予防に有用である可能性が示唆されたため、arundic acidの前投与は、強い低酸素負荷時の動物の死を抑制しうるか検討する予定である。
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