呼吸リズム形成メカニズムについて、従来、ニューロンネットワークによるとするネットワーク説と、ペースメーカーニューロンによるとするペースメーカー説とが提唱されてきたが、いずれの説とも矛盾した実験結果が得られており、真のメカニズムは未解明であった。最近、グリア細胞、特にアストロサイトは、ニューロン活動を支配し、様々な脳機能の発現で積極的な役割を果たしていることが明らかになってきた。そこで、本研究では、延髄のアストロサイトによる呼吸リズム形成への関与を検討することとした。呼吸リズム形成の場である延髄腹外側部のpre-Botzinger complex(preBotC)領域のニューロンとアストロサイトの活動を計測するため、新生ラット摘出脳幹脊髄標本を用いてカルシウムイメージングを行った。実験では、preBotC吻側レベルで延髄を横切断し、その断面からpreBotC領域にカルシウム蛍光色素を注入し、頚髄C4前根の吸息性神経出力を記録しつつ、共焦点顕微鏡でpreBotC領域の細胞活動を計測した。通常の計測の後、標本にTTXを投与すると、ニューロン活動のみが抑えられ、さらに、灌流液のカリウム濃度を0.2 mMへ低下させるとアストロサイトのみが興奮性を呈することから、ニューロンとアストロサイトとを分別した。その結果、preBotC内に、吸息性、前吸息性、および呼息性のアストロサイトが見出された。これらアストロサイトは、TTXでニューロン活動を抑えても自発活動を呈し、ニューロンに依存しない自律的なリズム形成能を有していることが明らかとなり、アストロサイトの呼吸リズム形成への関与が示唆された。これらの成果は、様々な呼吸調節障害の病態理解と治療法開発に基礎的知見を提供すると期待される。この成果は、平成29年3月に第94回日本生理学会大会で報告したが、さらに原著論文として発表すべく準備中である。
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