研究課題/領域番号 |
26460312
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
若林 繁夫 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 非常勤研究員 (70158583)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Na+/H+交換輸送体 / 心筋リモデリング / 心不全 / ベータリセプター / Ca2+結合蛋白質 / シグナル伝達 / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
本研究は、「形質膜にあるイオン輸送体の活性化によって膜近傍で起こるイオン濃度変化が下流の酵素をどのように特異的に活性化し、シグナル伝達を増幅させるか」に主眼をおいた研究計画である。特に、私たちがこれまで行ってきた細胞膜Na+/H+交換輸送体NHE1の活性化が心臓におけるシグナル伝達やその結果として起こる心機能調節や心筋リモデリングをどのように増幅しているかという点を明らかにすることである。平成26年度は、NHE1の活性化が細胞膜cAMP合成酵素の活性を増幅し下流に伝達されるかどうかという点を検討した。新生児ラット培養心筋細胞をベータ-1受容体アゴニストであるイソプレテレノール(Iso)で刺激し、cAMP依存性リン酸化酵素によるホスホランバン(PLB)のリン酸化を測定した。アデノウイルスでNHE1を高発現した心筋細胞を様々な条件(1~1000nM、1~10分、ホスホジエステラーゼ阻害剤IBMXが存在する場合としない場合)でIso処理し、PLBのリン酸化を調べたところ、いずれの条件においてもNHE1発現が有意な影響を及ぼすことを確認することはできなかった。受容体刺激とPLBリン酸化との間には複数の分子が介在するので、実際にはcAMPの直接測定を行う必要がある。上述の予備実験の結果では、NHE1の有意な効果を検出することは容易ではなく、本計画の細胞を用いて行う多くの実験にかなりの困難が予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、形質膜輸送体NHE1活性化の結果として起こる微小環境におけるイオン濃度変化がその周辺に局在する酵素を特別に活性化し、下流のシグナルに伝達されるかどうかを明らかにすることであった。ところが、cAMPシグナリングに関する予備実験の結果、NHE1高発現の効果が予想以上に小さく、有意な差を見出すことができなっかった。論文で発表しているように、蛋白質脱リン酸化酵素カルシニュリンに関しては、NHE1→下流シグナル増幅を検出できるので、申請者らはそのような機構が他にもあることを信じているが、それを検出することは実験的には相当困難と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、NHE1とその下流のあらかじめ予想したシグナル分子との関係を研究する方向性であった。しかしその方向性では、NHE1の効果が検出できない限り、それ以降の研究が進まないことになる。そこでむしろ考え方を180度転換し、動物モデルを用いてまず大枠を抑える実験を行い、結果が出ればその後シグナル系の詳しい解析に進むことにする。すなわち、「分子→細胞→動物」という方向性から、「動物→細胞→分子」という方向性に研究計画をシフトすることにする。幸いなことに、これまでの研究から作成した動物モデルがすぐに使用できる環境にあり、実験は順調に進むものと思われる。①顕著な心不全を発症するNHE1のトランスジェニック(Tg)マウスを用いて、NHE1の阻害以外の方法論(たとえばベータブロッカー)で病態が改善する方策を見出し、そこに介在するシグナル系の解析を行う。②NHE1-Tgで起こるようなCa2+過負荷の下流にあると思われるCa2+結合蛋白質(CHP3)の機能解析をノックアウトマウスを用いて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、外国出張があると考えていたが、諸般の事情により平成27年度は出張することができなかった。その分は次年度に繰り越して使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は動物実験が大幅に増えることが予想されるので、次年度繰越分は動物購入費や飼育費に充てたい。
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