研究課題
本計画は、当初分子レベルの研究を目指して進んでいたが、実験の困難さのため、研究が予想どおりには進展せず、NHE1と関連の深いCHP3のKOマウスの解析と培養した心筋細胞での実験を進めた。今回の研究対象であるCHP3(tescalcinとも呼ばれる)はCa2+依存性脱リン酸化酵素カルシニューリンのBサブユニットと相同性が高く、EF-hand 型カルシウム結合モチーフおよびN末端ミリストイル基を有する蛋白質であり、NHE1のサブユニットである。3つのアイソフォーム(CHP1~3)のうち、CHP3 はNHE1との相互作用は弱いが心臓に高発現することから、心臓では少なくとも何か別の心臓特有の機能を担っている可能性がある。そこで、CHP3-KOマウスに低酸素負荷(8%O2)を与えたところ、興味深いことに、野生型マウスでは起こらない左心室肥大(右心室肥大に加えて)が生じることがわかった。その際、野生型マウスの心臓におけるCHP3の発現は低酸素で著しく低下した。さらに、新生仔マウス心筋細胞においても、1%低酸素条件下においてCHP3の発現は著明に減少した。これらの結果により、CHP3は発現量を調節することによって、慢性低酸素による心肥大に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。低酸素負荷では一般的に力学的負荷が強くかかる右心室で肥大が見られるが左心室の肥大は顕著ではない。今回の結果は、血中の低酸素刺激が左心室にも作用すること、そのシグナルの下流にはCHP3が関与することを示唆している。
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