研究課題
今年度は、脳梗塞回復期における健常半球の四肢体性感覚情報の投射野の変化とその変化を修飾する薬剤の検証実験を行った。脳梗塞後1-2週間程度で健常半球による機能代償が起こるが、健常半球における体性感覚の投射野はそれ以降も大きく変化し、4週目では本来明確に区別されるべき四肢の投射が混在化していることがわかった。例えば、右脳の左後肢が投射している領域では、通常は左後肢刺激のみで有意な応答が記録できるのに対し、脳梗塞後4週間後では、他の3肢を刺激しても有意な応答が記録できるようになっていた。一方、本来投射している左後肢を刺激すると、刺激に対する反応率が低下していることがわかった。これらの変化は、グリア細胞の働きを調整する可能性があるデヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone:DHEA)の投与により改善することがわかった。脳梗塞後2-3週間でDHEAを腹腔投与したところ、4週目で見られる投射野の大きな変化が抑制され、左後肢投射領域における同肢刺激時の応答率の改善が見られた。機能的背景を探るため、DHEA投与後1週間(脳梗塞発症後4週間)のマウスから採取した体性感覚野におけるグルタミン酸受容体mRNAの発現量変化を計測したが、有意な変化が見られなかった。今後、DHEA投与直後での標本採取や別の時点でのDHEA投与の効果の有無について検証する予定である。また、DHEA投与によるグリア細胞活性化の有無をin vivo Ca imaging法で検証する予定である。さらに今年度は、アストロサイト機能を修飾する薬物としてアリピプラゾールの効果を検証し、DHEAと同様の効果が得られることを見出している。今後、同薬剤についても詳細に解析していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
計画当初に予定していた候補薬剤の絞り込みについてはおおよそ終了した。初年度に得られた結果をまとめた論文を現在作成中である。予想していた時点での分子レベルの変化が検証できなかったことは、残念であったが、次年度以降、計画を微調整して研究を遂行する予定である。また、今年度、当初予定していなかった、脳内酸素濃度のin vivoによる測定を行える実験系を確立することができた。
今後の展望として、初年度に有意な結果が得られた2薬剤について、その働きの詳細を検証していく。また、アストロサイトの機能評価を行う上で有効な情報となりえる脳内酸素動態の検証についても並行して行う予定である。さらに、老齢マウスにおける脳内酸素動態を計測することで、高齢者における脳梗塞後の機能回復とそれにかかわるアストロサイトの働きについて知見を加える予定である。
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