研究課題/領域番号 |
26460319
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
谷口 睦男 高知大学, 教育研究部医療学系, 准教授 (10304677)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電気生理学 / 鋤鼻系 / シグナル伝達 / 相反性シナプス |
研究実績の概要 |
フェロモン記憶の座である副嗅球の主要な神経回路は、僧帽細胞―顆粒細胞間の相反性シナプスであるが、その電気生理学的な性質についてはなお不明な点が多い。そこで、行動薬理学的実験からフェロモン記憶に関与することが示唆されている機能分子(各種Ca2+チャネル、下垂体後葉ホルモンなど)のうち、バゾプレッシンに対する阻害薬および作動薬の相反性シナプス電流に対する効果を調べた。 1. 僧帽細胞に脱分極刺激与えると、上記相反性シナプス由来の抑制性シナプス後電流(IPSC)が生じる。バゾプレシンの細胞外投与により、このIPSCは有意に抑制されることを見出した。 2. 次に、このバゾプレシンの抑制作用がどの受容体サブタイプを介して生じているかの同定を試みた。バゾプレシンの細胞外投与により300±61 pA・sから138±14 pA・s(コントロールの46.0±4.7%)に抑制されたIPSCは、Manning 化合物(バゾプレシン1a受容体(V1a受容体)阻害薬)を共投与することにより279±46 pA・s(コントロールの93.0%±15.3%)に回復した。 3. 同様の実験を、バゾプレシン1b受容体(V1b受容体)阻害薬のSSR149415を用いて行った。バゾプレシンの細胞外投与により833±228 pA・sから324±57 pA・s(コントロールの48.1±10.2%)に抑制されたIPSCは、SSR149415を共投与しても回復しなかった(277±59 pA・s、コントロールの41.1±9.4%)。 本研究結果から、バゾプレシンがV1a受容体を介して副嗅球僧帽細胞-顆粒細胞間相反性シナプス伝達に重要な役割を果たしていること、V1b受容体は副嗅球相反性シナプス伝達にはほとんど寄与しないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、行動薬理学的実験からフェロモン記憶に関与することが示唆されている機能分子の、細胞レベルでの作用(具体的には相反性シナプス電流に対する作用)を明らかにすることを目標とした。実際にバゾプレシンが上記相反性シナプス電流に対する抑制作用を有することを見出した。そして、その抑制作用に関わっているバゾプレシン受容体のサブタイプも生理学的に明らかにできた。これらいずれの成果も、フェロモン記憶に必須である上記相反性シナプス伝達の特性に関する従来の知見を着実に発展させるものであり、当該研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 相反性シナプス電流に対するバゾプレッシン受容体の作用 当該年度は、バゾプレシンが相反性シナプス電流に対する抑制作用を有することを、バゾプレシン受容体阻害薬を用いて示した。この知見をさらに確実にするため、同受容体作動薬がバゾプレシンと同等の作用を有するかを調べる。同時に、バゾプレッシンの作用点(僧帽細胞膜と顆粒細胞膜のどちらか、あるいはその両方か)についても調べる。 (2) シナプス伝達の可塑的変化の測定 上記相反性シナプス電流の大きさを記憶形成群と未形成群とで記録し、比較する。また、(1)と同様の実験を記憶形成群で行い、記憶形成群と非形成群とで各種阻害薬および作動薬の効果に差がないか調べる。これにより、記憶形成の有無によって生じる神経回路の差異を調べ、フェロモン記憶の機構を神経回路変化という観点から明らかにする。フェロモン記憶により可塑性が誘導されるシナプスが少ない場合は、記憶に起因する相反性シナプス電流の変化を効率的に捉えるため、次の方法により対処する。 ●LTP誘導に伴う相反性シナプス電流変化の測定-----当研究室では僧帽細胞の軸索束(外側嗅索LOT)を逆行性に刺激すると、僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達に長期増強(LTP)が誘導されることを、スライス標本からの集合電位記録により見出している。LTPを誘導したスライス標本を用い、相反性シナプス電流に及ぼす各種薬物の影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、本研究の研究対象である相反性シナプスのシナプス伝達に影響を及ぼす機能分子を探究するために、様々な機能分子候補それぞれに対する阻害薬および作動薬の購入を計画した。初めに試みた機能分子候補の作動薬や阻害薬が、シナプス伝達に作用するとは限らず、むしろ何種類も試してようやく有効な機能分子候補にたどりつく可能性は十分あり得ることだからである。このように、新たな機能分子の同定には困難も予想された為、予算申請時にこれらの薬物の代金を現実的な種類を想定して計上した。上述したとおり、研究代表者の慎重な機能分子候補の絞り込みが効を奏し、初めに試したバゾプレシンが相反性シナプス伝達に作用することを見いだした。バゾプレシン自体が比較的安価であったこと、その他の機能分子候補に関連した試薬購入が必要無くなったことも、経費の節約に役立った。 以上の理由から次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
・設備備品費として25万円を計上。電気生理測定・解析機器の購入代、修理代、維持費に用いる。 ・薬品は、53万円を計上。各種グルタミン酸受容体阻害薬および作動薬、バソプレッシン受容体阻害薬および作動薬、この他の主なものは電位依存性Naチャネル阻害薬や、細胞内液作成時に使用するMg-GTPなど、を購入する。実験動物は、9.0万円を計上。年間に120匹を使用するとして算出した。購入費(自家繁殖を併用して費用の軽減を計るが飼育スペースに限りがあるため半数程度は新規に購入する必要がある)および飼育代(値上がり分を含む)として妥当かつ必要な額を使用する。実験器具は、6.0万円を計上。ガラス器具(メジューム瓶やメスシリンダ等)、スライス作成時の刃やメスの替え刃の購入に充てる。論文別刷りは、5万円を計上した。 ・旅費等は8万円を計上した。次年度に開催される日本味と匂い学会および日本生理学会での研究成果発表に使用予定である。
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