今年度は、前年度で明らかにしたバゾプレシンのV1a受容体を介するIPSC抑制作用の作用点の同定をさらに進めた。 まず前年度に引き続き、顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達における、バゾプレシンの作用点を調べた。昨年度と同様に、CNQX およびAP5を用いて僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプス伝達を遮断しておき、顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達がバゾプレシンによって影響を受けるかを調べた。 僧帽細胞にパッチ電極を適用し、TTX存在下において顆粒細胞膜の自発性興奮により生じるGABA作動性IPSCを膜電位固定下で記録した。バゾプレシンの細胞外投与によりmIPSCの発生頻度・大きさについて、累積度数分布解析を例数を増やして行い、少なくとも顆粒細胞から僧帽細胞へのGABA作動性シナプス伝達に作用点があることを見出した。 次に、GABA作動性シナプス伝達に対するバゾプレシンの作用点が、シナプス前機構か後機構によるのかを直接的に特定するために僧帽細胞のGABA応答を測定したところ、バゾプレッシンの細胞外投与によってGABA応答は影響を受けなかった。このことは、バゾプレシンのIPSC抑制作用が顆粒細胞‐僧帽細胞間のGABA作動性シナプス伝達のシナプス後機構を介していないことを示唆した。 バゾプレシンの作用点を多角的に捉えるため、個々の細胞からの応答に加えて、より多くの細胞からの応答を記録できる集合電位記録も行った。顆粒細胞に由来する集合電位応答にはバゾプレシンは影響しないことは既に昨年度に見出してるが、それに加えて、相反性シナプスの反復刺激に対し、バゾプレシンが相反性シナプス伝達を増強する作用を有することを明らかにした。以上の結果は、バゾプレシンが、通常の感覚入力時のみならず、フェロモン記憶時にも重要な役割を果たしていることを示唆した。
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