幼少期に虐待やネグレクト、孤独といった社会的ストレスを経験すると、摂食の異常と肥満が起こりやすいという疫学的な報告がある。しかし、このメカニズムは明らかではない。本研究の目的は、幼少期に社会的ストレスを受けると、延髄プロラクチン放出ペプチド(PrRP)産生ニューロン-視床下部オキシトシン産生ニューロン回路が可塑的に機能低下し、その結果成熟後に摂食量が増大して肥満するという仮説を検証することである。 幼少期の社会的ストレスとして、社会的隔離によって遊び行動を阻害した群と、隣で他者が遊ぶところを観察できるが一緒に遊ぶことを阻害した群の検討を行った。遊び行動をしているラットでは、視床下部のオキシトシン産生ニューロンが活性化される様子が認められた。他者の遊び行動を観察しているが一緒に遊ぶことができない個体では、一匹で遊ぶ行動が惹起され、遊び行動をしているラットと同様にオキシトシン産生ニューロンが活性化される様子が認められた。また、遊びを経験してきた正常群と比較したところ、社会的ストレス群では成熟後の社会行動に異常が見られたが、幼少期から成熟するまでの間の摂食量と体重変化には差がなかった。 また、我々は部位特異的にオキシトシン産生ニューロンを破壊し、その機能を探る目的で、オキシトシン遺伝子プロモーター制御下でヒトジフテリア毒素受容体を発現する遺伝子改変ラットを作製した。これに対してジフテリア毒素を局所投与し、部位特異的にオキシトシン産生ニューロンを破壊することに成功した。同様に、PrRP産生ニューロンを部位特異的に破壊する目的で、PrRP遺伝子プロモーター制御下でヒトインターロイキン2受容体αサブユニットを発現する遺伝子改変ラットを作製した。これに対してイムノトキシンを局所投与し、部位特異的にPrRP産生ニューロンを破壊することに成功した。
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