本研究は、先立っておこなった研究で得られた、麻酔深度を深くすると二連発の感覚刺激の刺激間隔が300 ms程度と短い場合、二発目の刺激に反応する体性感覚誘発電位の振幅が、一発目の刺激に反応する電位の振幅より有意に大きく低下するという現象が、大脳皮質のどの部位で起こっているかを調べることを目的としたものであった。ラット大脳皮質の1次体性感覚野に、ミシガンプローブという多チャンネルの遠隔電場電位記録電極を刺入し、麻酔深度が浅い条件と深い条件との2つの条件下で、末梢の電気刺激を300 ms程度の間隔で行い、麻酔深度が深い場合に二発目の刺激に対する反応が小さくなることが、皮質の層構造のどの部分で観察されるかについて電流源密度推定法を用いた検討と、末梢の電気刺激間隔が1秒と比較的長い場合と、300msと短い場合とで、大脳皮質におけるγアミノ酪酸の分泌量に差が見られるかどうかの検討を行なった。研究機関全体を通じた研究の遅れがあったが、最終年度にプレアンプを購入・導入することで記録自体は順調に行うことができた。しかし、麻酔深度を深くすると誘発電位自体が消失する場合が多く、本研究の仮説を再検討する必要性が生じた。つまり先に述べた現象は、大脳皮質の個々のニューロンで一様に起こっている現象ではなく、誘発電位を構成する数多くのニューロンのうち、麻酔を深くすると二発目の刺激には反応しなくなるニューロンの数が増加することで、全体として誘発電位が低下したという可能性が考えられた。また、γアミノ酪酸の分泌量に差があるかどうかについては、検出感度を十分に高めるまでには至らず結論は出なかった。電気生理学的検討については、今後は新たな仮説に基づいて研究計画を練り直し、またγアミノ酪酸の関与の検討については、検出感度の向上を測りながら、本現象の生理学的な解明の研究を継続して行なっていきたいと考えている。
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