研究課題/領域番号 |
26460334
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中谷 晴昭 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60113594)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | J波症候群 / 特発性心室細動 / ATP感受性K+チャネル / Kir6.1 / 遺伝子改変動物 |
研究実績の概要 |
特発性心室細動の原因としてJ波症候群が注目されている。その原因の一つとして細胞膜ATP感受性K+チャネルのポア成分であるKir6.1の遺伝子異常に伴うgain-of-functionに求める臨床報告がいくつかなされている。この仮説の検証のため、野生型マウス、心臓Kir6.1過剰発現マウスおよびヒトにおいてJ波症候群のgain-of-function遺伝子変異とされるS422L Kir6.1のトランスジェニックマウスを作成し、これらを使った機能実験を行うこととした。 麻酔下の野生型マウスから体表面心電図を記録した。マウスでは対照時からJ波が観察される。野生型マウスにおいてIc群抗不整脈薬であるフレカイニド、ピルジカイニドを腹腔内投与するとJ波の増強が観察された。一方、Ca2+チャネル遮断薬であるベラパミルの投与ではJ波の減弱が認められ、K+チャネル開口薬のピナシジルの投与ではJ波の変化は認められなかった。低体温でもJ波の増高が認められ、マウスを低酸素-再酸素化負荷を与えるとJ波の拡大が認められた。2系統の心臓Kir6.1過剰発現マウスにおいても麻酔下に体表面心電図を記録し、1系統のKir6.1過剰発現マウスではJ波の拡大が認められ、もう1つの系統ではSTの低下が観察されたが、薬物に対する反応性においては本質的に野生型マウスと同じであった。しかしながら、低酸素-再酸素化負荷の状況でフレカイニド投与を行うと、心室不整脈の多発が観察された。これは野生型マウスについて同じような負荷を与えた際の不整脈発生に比べて明らかに異なっており、現在、ランゲンドルフ摘出心を用いてその電気生理学的要因を検索中である。 また、S422L Kir6.1のトランスジェニックマウスを作成して、現在継代繁殖中である。今後このマウスについても心電図記録をはじめ、電気生理学的実験を行う予定としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に予定していた野生型マウスからの体表面心電図記録およびKir6.1トランスジェニックマウスからの体表面心電図記録と種々の薬物や低体温や低酸素・再酸素化における変化についてはほぼ計画通り終了した。また、概要には記載しなかったが、野生型マウスの心室筋細胞およびKir6.1トランスジェニックマウスの心室筋細胞からピナシジル誘発ATP感受性K+電流密度を測定したところ、Kir6.1トランスジェニックマウスの心室筋細胞では野生型マウスの心室筋細胞に比して、むしろその電流密度が減少していた。また、Kir6.1トランスジェニックマウスの心室筋細胞では電位依存性外向きK+電流密度も減少し、その結果カレントクランプモードで記録したKir6.1トランスジェニックマウス心室筋細胞の活動電位持続時間も野生型心室筋細胞のそれに比し、延長していた。これらの結果を踏まえ、摘出心室筋標本での活動電位記録実験の予備実験を行ったものの、本格的実験は行わなかった。一方、研究実績の概要に記載したように、Kir6.1過剰発現マウスにおいて低酸素-再酸素化負荷の状況でフレカイニド投与を行うと、心室不整脈の多発が観察された。その電気生理学的要因を明らかにするために、摘出ランゲンドルフ心を用いて低酸素-再酸素化およびフレカイニド灌流時の心室内伝導の変化を中心に現在、野生型摘出心およびKir6.1過剰発現摘出心を用いて比較実験を継続中である。また、ヒトにおいてJ波症候群のgain-of-function遺伝子変異とされるS422L Kir6.1のトランスジェニックマウスの作成に成功しており、電気生理学的実験に供するため、現在継代繁殖中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ヒトにおいてJ波症候群のgain-of-function遺伝子変異とされるS422L Kir6.1のトランスジェニックマウスの体表面心電図記録及び各種薬物投与時の心電図変化を観察する。また、各種薬物負荷によって体表面心電図がどのように変化するかを合わせて観察し、既に得られている野生型マウスおよびKir6.1トランスジェニックマウスから得られたデータと比較検討する。このマウスの単離心室筋細胞から膜電流記録を行い、ピナシジル誘発ATP感受性K+電流密度を測定する予定である。現在進めている摘出ランゲンドルフ心を用いた実験も、必要に応じてこのS422L Kir6.1のトランスジェニックマウス摘出心にも適用する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、S422L Kir6.1トランスジェニックマウスの作成が順調に進まず、その作成が平成26年度末近くにやっと成功する状況となった。その結果、継代繁殖作業およびジェノタイプ同定のための遺伝子検査等の作業が大部分平成27年度に行うこととなったため、Kir6.1トランスジェニックマウスの繁殖作業に加えて、S422L Kir6.1トランスジェニックマウスの繁殖作業および遺伝子検査関連の人件費および消耗品費用が平成27年度使用分に含まれる見通しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度にはKir6.1トランスジェニックマウスの繁殖作業に加えて、S422L Kir6.1トランスジェニックマウスの繁殖作業が必要となる。次年度使用額はこれらに必要な人件費およびジェノタイピング費用、電気生理学的実験に必要な消耗品費に充当される。
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