研究実績の概要 |
特発性心室細動の原因としてJ波症候群が注目され、その要因の一つに細胞膜ATP感受性K+(KATP)チャネルのポア成分であるKir6.1の遺伝子異常(S422L)に伴うgain-of-function(GOF)に求める臨床報告がいくつかなされている。この仮説の検証のため、S422L変異を導入したKir6.1トランスジェニックマウス(Tgmt)を新規に作成し、その電気生理学的変化について野生型Kir6.1Tgマウス(TgWT)と比較検討を行った。Tgマウスから記録された体表面心電図ではJ点近傍で ST低下、またはJ波増大が認められ、さらにQT時間の延長を伴っていたが、S422L変異に特徴的ではなかった。両Tgマウスの単離心室筋細胞においては活動電位幅(APD)が延長しており、体表心電図におけるQT延長と符合していた。一方、Pinacidilにより誘発されるKATP電流および電位依存性K+電流(IK, IK1, Ito)の電流密度は両Tgマウス心室筋細胞において野生型(WT)心室筋細胞に比して低下していた。また、KATPチャネルの単一チャネル電流解析を実施した所、両Tgマウス心室筋細胞ではWT心室筋細胞に比し、チャネルの開口確率が著明に低下していたが、ATP感受性はWT心室筋細胞、Tgmt心室筋細胞、TgWT心室筋細胞においてほぼ同一であり、Tgmt心室筋細胞においてKATPチャネルがGOFを示す実験成績は得られなかった。 一般的に、心筋細胞膜KATPチャネルはKir6.2により構成され、 Kir6.1の関与は低いものと考えられる。さらに、Tgマウスを用いた本研究の検討において、S422L変異がGOFを引き起こすという実験成績は得られず、J波症候群におけるKir6.1のS422L変異の関与という仮説に対しては、否定的な見解を示すことができたと考えている。
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