研究課題
GRK2は,Gタンパク共役型受容体(GPCR)のシグナル伝達の制御する役割を果たすが, GPCRリン酸化以外の病態生理的機能を持つことが指摘された。GRK2が種々の炎症疾患においてその発現が変化しており,炎症の病態形成に重要な働きをしていることから,GRK2は,確固たる治療法がなく致死性の高い敗血症性多臓器不全の有用な標的分子になり得るかもしれない。8-12週齢の雄性BALB-Cマウスに盲腸結紮穿孔(CLP)を行い,敗血症を生じさせたとき,GRK2阻害薬であるmethyl 5-[2-(5-nitro-2-furyl)vinyl]-2-furoateの投与は,炎症性サイトカインの増加を減弱させ,組織の炎症病理像およびアポトーシス発現増加にも,有意な阻止効果を示した。GRK2阻害薬治療を56.4 ng/kg/dayの用量で投与したとき,CLP誘発性敗血症マウスの生存率は有意な改善を認めた。以上の結果は,敗血症病態形成におけるGRK2の役割が示唆される。さらに敗血症性臓器障害の一つであり,敗血症の予後にも影響する敗血症性脳症におけるGRK2の役割について検討した。株化6-3ミクログリア細胞において,エンドトキシンであるLPS刺激によりGRK2の発現は変わらなかったが,GRK2のsiRNAによりGRK2をノックダウンしたとき,LPSによるiNOSの発現量はmRNAおよびタンパク量ともに有意に減少し,NO産生量も低下した。さらにLPSによる活性酸素(ROS)産生量も低下した。CLP誘発性敗血症マウスにおいて,GRK2阻害薬の投与は,ROS産生量の上昇を軽減させ,脂質過酸化物であるMDA (マロンジアルデヒド)の増加を抑え,SOD (superoxide dismutase)の発現低下を改善した。結果的に,CLPマウスにみられる大脳皮質の核変性を有意に低下させた。これらの結果は,GRK2を標的分子とする創薬の開発が,敗血症性脳症を防止あるいは進展を阻止する有力な治療戦略を提供するかもしれないことを示唆する。
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Am J Physiol Heart Circ Physiol
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10.1152/ajpheart.00828.2016.
日本臨床
巻: 74 ページ: 1761-1768