研究課題
EPRAPは、マクロファージにおいて、プロスタグランジンE2受容体であるEP4受容体の新規細胞内ドメイン結合蛋白として同定され、NF-kB1 p105との結合を介して、炎症性刺激後のMEK-ERK経路の活性化を特異的に抑制する (Minami M, et al. J Biol Chem, 2008)。EPRAPが介在する細胞内シグナル伝達機構の解明は、炎症性疾患のみならず、2型糖尿病や動脈硬化性疾患、悪性腫瘍など、難治性慢性疾患の新たな治療標的としても期待される。これまで、我々は、EPRAP遺伝子欠損マウスなど遺伝子改変動物を独自に開発し、in vivoにおけるEPRAPの機能を検討してきた。平成27年度は、これまでの研究成果をもとに、EP4シグナルによる炎症性腸疾患の進展抑制に、EPRAPが下流分子として決定的な役割を果たすことを国際誌に報告した。ここで我々は、ヒト潰瘍性大腸炎病理組織を用いて、EPRAPは病変部のマクロファージに存在するが、腸炎の重症度とEPRAP発現レベルは逆相関することを見いだした。すなわちEPRAPは、炎症性腸疾患の新規治療標的として期待されると同時に、病勢のマーカーとしても重要であることが示唆された (Nakatsuji M., et al. 2015 PLoS Genet)。さらに、in silicoの予測結果から得られたEPRAPの翻訳後修飾部位について、ミュータントEPRAPを用いた検討を加え、これら翻訳後修飾の機能的意義や修飾酵素を明らかにした (論文リバイス中)。平成26年度に引き続き、ブレオマイシン誘発肺臓炎モデルや脳内炎症モデルなど、複数の炎症疾患モデルを作成し、慢性疾患の病態生理におけるEPRAPの役割とその分子メカニズムに関する検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、平成26年度以前に行った研究ツール開発などの成果に基づき、慢性炎症の病態におけるEPRAPの機能解析を深化させさせ、上述の通り、炎症性腸疾患の新規治療・診断標的として、EP4受容体-EPRAPシグナルの重要な意義について、国際誌に発表することが出来た。EP4受容体-EPRAPシグナル活性化の指標となるべきEPRAPの翻訳後修飾についても、部位の同定や機能的意義の証明など、大きな進歩が得られた。一方、当初の研究計画に示した、慢性炎症におけるEPRAPを中心とした分子間相互作用の解明、すなわちEPRAP結合蛋白の解析については、トリプシン処理後TOF MS/MS による質量分析などプロテオーム解析を予備的に行い、いくつかの候補分子が得られたものの、Co-IPによる実証実験や、これらの分子間相互作用の生体内での機能的意義については明らかにできていない。今後はタグ付きリコンビナントEPRAP 蛋白を作成し、マクロファージなど細胞lysate を用いたpull-down アッセイによる結合蛋白の同定なども視野にいれ検討を進めて行く。
引き続き、がんや動脈硬化などの病態におけるEPRAPの機能について、モデル動物の表現型の比較等を通じて検討を加え、慢性疾患の病態生理におけるEPRAPの役割を、分子メカニズムとともに明らかにする。我々の研究成果から、炎症性腸疾患などにおいては、EP4受容体-EPRAPシグナルが新規の診断・治療標的となる可能性が示唆されており、ヒトの病理検体を用いたさらなる臨床的意義の検証の他、EP4-EPRAP経路の簡便な活性化指標を確立し、創薬・体外診断薬開発への橋渡しを目指す。
平成27年度は、これまでの研究成果に基づき、慢性炎症の病態におけるEPRAPの機能解析を進め、上述の通り順調な研究の進展と成果が得られた。研究経費の内訳では、動物の購入・飼育管理費や細胞培養室維持費、共同機器室使用費等を「その他」として執行した他は、表現型解析など研究の遂行に必要な物品費(研究消耗品購入費)にあてたが、新規購入を極力控え同等品への切り替えなどの努力を行い、最小限の支出にとどめた。
次年度以降も、がんや動脈硬化の病態におけるEPRAPの機能解析のため、比較的多額の経費を要する疾患モデル動物を用いた研究が中心となる。EP4-EPRAP経路の活性化指標を確立し、化合物ライブラリーの利用による創薬への橋渡しも視野に入れており、本年度の繰越分を有効に活用し、十分な研究成果を得るべく、各研究内容の進捗など研究全体を俯瞰し計画的にかつ適切に執行する。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
J Clin Oncol
巻: 33 ページ: 4015-22
doi: 10.1200/JCO.2015.62.3397.
PLoS One
巻: 10 ページ: -
doi: 10.1371/journal.pone.0136304.
PLoS Genet
巻: 11 ページ: -
doi: 10.1371/journal.pgen.1005542.
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~rinsho/research/research_minami/