臨床ではバルプロ酸は、抗てんかん薬、抗躁薬、抗ガン薬として用いられている。近年、iPS細胞の作製効率を上昇させることや神経幹細胞による移植治療効果を改善させることが報告されている。しかしその分子メカニズムには不明な点が多いである。我々は、分裂酵母モデル生物を用いて、分子遺伝学的研究を進め、以下の結果を得た。 本年度に栄養培地ではΔnpr2細胞もΔnpr3細胞もΔlam2細胞も生育が阻害されるが、古典的なmTOR阻害剤ラパマイシンも新規のmTOR阻害剤Torinもこの生育阻害を回復させたことを見つけた。TORC1の下流基質蛋白Rps6のリン酸化、転写因子Gaf1の局在、複数のアミノ酸トランスポーターの転写を指標にし、分裂酵母ではこの3つの分子はTORC1経路を負に制御していることを証明できた。さらに3つの分子はTORC1の正の制御因子Rag GTPase Gtr1とGtr2の局在制御と蛋白安定性に関わっていることを明らかにした。驚くことに哺乳類ではNpr2とNpr3ホモログはmTORC1経路を負に制御し、Lam2ホモログはmTORC1経路を正に制御していることが報告されている。本年度の研究結果は高度に保存されている細胞成長に極める重要なTORC1経路の制御メカニズムの解明にヒントをもたらす極めて重要な結果である。
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