研究実績の概要 |
高齢化社会の今日、動脈硬化性疾患の増加は著しく、その対策は急務である。なかでも急性大動脈解離の致死率は高く、多くは緊急手術以外に救命する手段はない。大動脈解離の発症に、血圧急上昇が関与している可能性があるが、その詳細な分子機構は不明である。 我々は、「大動脈壁の中膜を構成する血管平滑筋細胞に対する急激な伸展負荷が、アポトーシスを含む細胞死を招いて大動脈解離を引き起こすのではないか?」という新しい仮説を立てた。本研究では急激な伸展負荷による血管平滑筋細胞死の分子メカニズムを解明し、降圧に依存しない、全く新しい大動脈解離の発症予防薬を開発することを目標とした。最近、血管平滑筋細胞への機械的刺激がアゴニストに依存しないアンジオテンシンII受容体の活性化を引き起こすことが報告された(Nat. Cell Biol. 6: 499-506, 2004)。このことは、機械的ストレスによって細胞内シグナルが変動することを示唆している。一方、以前より我々は、培養血管平滑筋細胞を用いた実験で、酸化ストレスや低酸素負荷などが細胞内シグナルを変動させ、細胞増殖や細胞死をもたらすことを報告してきた(J. Biol. Chem. 275: 11706-11712, 2000; Circ. Res. 90, 1222-1230, 2002 ; Exp. Cell Res. in press, 2013)。 DNAマイクロアレイによる解析にて、血管平滑筋細胞に対する急激な伸展負荷により、ケモカインCxCl1とCx3Cl1の発現上昇がみられた。さらにこれらケモカインを阻害すると、伸展負荷による血管平滑筋細胞死が増強したことから、ケモカインは動脈解離発症に抑制的に作用していることが示唆された。今後、ケモカインを標的とした動脈解離発症予防法の開発に道が開かれることが期待される。
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