侵害受容性神経の活性化に伴い、末梢の自由神経終末からグルタミン酸が遊離されることが知られている。前年度までの研究において、末梢で遊離されたグルタミン酸は短期的・長期的に感覚神経の代謝型グルタミン酸受容体1/5(mGluR1/5)に作用して、ポリモダル受容体TRPV1を介した痛覚受容を修飾していることを明らかにしてきた。具体的には、一過性にmGluR5を活性化するとTRPV1電流を増強させ痛覚過敏を引き起こす。また、mGluR5活性化は持続的に電位依存性カルシウムチャネルを抑制するため、刺激がなくなるとTRPV1を介した痛覚応答を減弱させる。また、長期的にmGluR1/5を活性化させると、機能的にTRPV1を発現する感覚神経が増加して痛覚過敏を引き起こすことが明らかになってきた。最終年度は、慢性炎症時に代謝型グルタミン酸受容体を介した痛覚応答の制御がどのように変化するか検討した。マウスにおいて完全フロイントアジュバントを用いて慢性炎症を誘発させると、代謝型グルタミン酸受容体を介した自発的痛覚応答が増強することを明らかにした。この反応は炎症時に産生される神経栄養因子の一つである神経成長因子(NGF)が侵害受容性神経に作用することにより、mGluR1/5の応答性が増大することが原因であることも判明した。したがって、グルタミン酸はmGluR1/5を介して健常時の痛覚応答を制御するだけでなく、慢性炎症時の痛覚異常とも密接な関連があることを明らかにすることができた。
|