研究課題/領域番号 |
26460352
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
木村 由佳 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所神経薬理研究部, 研究補助員 (60425692)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポリサルファイド / 硫化水素 / TRPA1 / 細胞内カルシウム / アストロサイト / シグナリング |
研究実績の概要 |
本年度はまずアストロサイトにおけるカルシウム応答を指標として、ポリサルファイド(PS)によるTRPA1活性化の特徴づけを行った。PSによるTRPA1 の活性化は、未成熟細胞で弱く、成熟細胞で強く、分化させたreactive 細胞や老齢細胞では成熟細胞と比べて弱かった。TRPA1 のRNAレベルは、未熟細胞では低く、成熟細胞では約8倍、reactive 細胞や老齢細胞では成熟細胞の0.39倍に低下と、応答性の変化と一致した。これより、カルシウム応答性がTRPA1の発現に強く依存することが明らかとなった。 次に、他組織でTRPA1との共局在が報告されているTRPV4がカルシウム応答に関与するかを検討した。TRPV4はアストロサイトに発現しカルシウム応答を惹起すること、PSによるカルシウム応答の一部はTRPV4阻害剤で低下することが判明したが、TRPA1のようなRNA発現量と応答性との対応がみられず、カルシウム応答への関与が低いことが明らかとなった。 生体内でのPSの役割を探索するため、細胞保護作用を持つニンニク由来有機PS、dimethyl-trisulfide、diallyl-trisulfideの作用を検討した。両化合物ともTRPA1を無機PSと同程度の強さで活性化させた。脳内には20microMのPSが存在することを考えると(Yuka Kimura et al,FASEB J,27,2451-7,2013)、PSがまだ未発見のTRPA1の内在性リガンドであり、生理作用を持つことが強く支持された。 PS(H2Sn,n=2-7)は水溶液中では長さの異なるポリマーの混合物として存在し、イオウの結合/解離を繰り返す。これまで行ってきたHPLC法では長さの異なるPSが分離できなかったが、LC/MS/MSで分離することに成功した(明治薬科大学、小笠原先生との共同研究)。この手法は、脳内でのPSの分布とその種類の解明に今後応用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
硫化水素由来のポリサルファイドが、アストロサイトのTRPA1チャネルを活性化させる、という事実は筆者らが世界で初めて見出した。これは今まで硫化水素の生物作用としてひとくくりにされていたものの中にポリサルファイドが担うものがあることを示しており、今後の研究の発展が大きく期待される分野である。 本年度はTRPA1活性化機構の特徴を明らかにし、長さの異なるポリサルファイドを分離測定する方法が確立させ、次年度以降の研究への礎を作った。 また日本薬理学会、日本神経科学会、日本生化学学会、International Conference of H2S Biology and Medicineにおいて一般演題10題を発表した。連携研究者木村英雄は、この他招待講演7件(国外5件、国内2件)、一般演題7件の発表を行った。木村英雄が主宰したThe Third International Conference on H2S Biology and Medicineがはシンポジウム46件、ポスター発表111件、国外参加者が約9割を占める国際色豊かな学会となり、国内外での硫化水素およびポリサルファイド研究の発展、拡散に寄与した。 また本年度までに得られたポリサルファイドに関わる結果をまとめて投稿中である。 全体としておおむね順調に計画が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究2年目である次年度は計画に挙げた以下の項目に注力する。 5.マウス脳でのポリサルファイド(PS)の局在の決定;週令の異なるマウスから脳を取り出し、各部位にわけ、ライセートを調製する。チオール基を蛍光色素で標識し、HPLCでPSを定量する。またLCMSMSにより、どの長さのPSがどのくらいの割合で存在するかを決定する。PSの親物質である硫化水素を産生できない硫化水素産生酵素ノックアウトマウスでも検討する(マウスはすでに所持)。 1.スルフヒドリル化によるTRPA1の活性調節;システイン残基をアラニンやセリンなどに置換してスルフヒドリル化を受けにくいTRPA1変異体を作製する。これをアストロサイトやHEK細胞に発現させ、PS誘発性のカルシウム応答が低下/消失するかを検討する。陽性対照TRPA1作動薬、TRPA1選択的阻害剤の効果、DTTによる過硫化の削除効果も検討する。チャネルの過硫化を可視化するため、ビオチンスイッチ変法、マレイミドアッセイ法などを利用する。 2.TRPA1の活性化への硫化水素合成酵素の関与;PSは硫化水素から産生する。そこで親物質である硫化水素の産生がカルシウム応答に与える影響を検討する。硫化水素の合成酵素3MST、CBS(プラスミド所持)をアストロサイトなどに過剰発現させ、TRPA1の活性化を検討する。硫化水素合成酵素の阻害剤の作用も検討する。また硫化水素合成酵素のノックアウトマウス(すでに所持)からアストロサイトの初代培養を調製し、PSに対するカルシウム応答を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究の順番を変えたことにより検出キット、抗体などの高額な消耗品の購入が少なかったので、当初の予想より消耗品の支出が少なかった。研究室主催の学会開催があり外国出張しなかったこと、機器修理費用がかからなかったことからも次年度繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、より高い確率で機器修理が生じると予想される。また本年度購入しなかったキット、抗体、試薬などの高額消耗品が必要である。本年度の繰越金と次年度以降に請求する研究費はこのような出費に充てる予定である。この他、ルーチンで必要な消耗品、学会参加費、旅費、論文投稿費用などに充当し、研究を推進する予定である。
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