研究課題/領域番号 |
26460352
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
木村 由佳 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 所長室, 研究員(移行) (60425692)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリサルファイド / 硫化水素 / 3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素 / ロダネース / シグナル分子 / TRPA1 / 酵素的産生 / 脳 |
研究実績の概要 |
我々は世界に先駆けて硫化水素(H2S)が生理活性物質であることを発見し、多くの組織で様々な生理作用を持つことを報告してきた。アストロサイトではH2Sにより細胞内Ca2+が上昇するが、イオウが複数直鎖状に結合したポリサルファイド(H2Sn、n≧2)では H2Sの300分の1以下の濃度で細胞内Ca2+が上昇すること、H2Snが脳内に存在することから新規シグナル分子として働くことが予想された(Nagai Y et al 2006, Oosumi et al 2010, Kimura Y et al, FASEB J、2013)。またH2SnがTRPA1チャネルを活性化することも見出し、内在性TRPA1リガンド候補としてのH2Snを提案した。 このような背景のもと、本研究はH2SnによるTRPA1の作用機構の解明を目的とした。平成27年度は各種あるH2Snの内H2S3、H2S、H2S2、H2S5が生体内に存在し、それらがメルカプトビルビン酸から酵素により産生することを報告した(Kimura Y et al、Scientific Reports 2015)。 我々はH2Sの血管平滑筋弛緩作用が一酸化窒素(NO)存在下では相乗的に増強することを報告していたが(Hosoki et al,1997)、その機構は不明であった。H2SとNOは化学的に相互作用し、H2Sn、HNO、SSNO-などの化合物が産生する。本年度の研究から生理的な条件下では、H2SとNOの相互作用により主としてH2Snが産生し、それがTRPA1チャネルを活性化させることが明らかとなった(Miyamoto et al, Scientific Reports 2017)。 このようにシグナル分子としてのH2Snの重要性が蓄積しつつあり、今後この分野の益々の発展が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規シグナル分子H2SnによるTRPA1の作用機構の解明を目的として本研究を開始した。前年度はH2Snの中で、H2S、H2S2、H2S3、H2S5が脳細胞に存在すること、酵素により産生することを見出し、H2Snが内在性のシグナル分子であることが明らかとなった。 本年度の研究により、生理的な条件下ではH2SとNOの相互作用により主としてH2Snが産生し、それがTRPA1チャネルを活性化させることが明らかとなりさらに研究が発展した。 研究成果は論文(5件)にまとめ、日本薬理学会、日本神経科学大会、日本生化学大会において口演、ポスター発表(計15件)を行った。このうち、連携研究者木村英雄は招待講演(6件うち国際学会4件)を行なった。この他熊本大学、東京薬科大学、徳島文理大学にて口演を行った。 本年度これらの研究が今後飛躍的発展が期待される先端研究領域に特定され、世界をリードする科学者として木村英雄が、トムソンロイター第4回リサーチフロントアワードを受賞した。 このように全体としておおむね順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究から、H2Snは、3MSTやRhodaneseにより酵素的に産生する、H2SとNOの相互作用により産生するという少なくとも2つの機構により産生することが分ってきた。このようにして産生したH2SnはTRPA1チャネルを活性化して生物作用を起こす。 本年度はTRPA1遺伝子改変ラットの作製及び引き渡しが完了したので、このラットを使った解析を実行する。まず得られたTRPA1ヘテロラット3系統を交配、繁殖させて、実験に適した系統を選び出す。その過程でヘテロラットの交配してホモラット(TRPA1ノックアウト)を作出する。新生仔ラット脳からアストロサイトの初代培養を確立し、Ca2+イメージング法により、H2SnによるTRPA1依存性のCa2+応答が起こらないことを確認する(方法はKimura Y et al, FASEB J, 2013参照)。またノックアウトラットから作出したアストロサイトにTRPA1を発現させて、H2Snに対するCa2+応答が獲得できるかを観察する。確立した系統で行動実験を行い、TRPA1がどのような生理機能と関わるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリサルファイドのよるTRPA1の活性化(Y.Kimura etal, FASEB J,27,2451-57,2113)を確認するため、当初計画になかったTRPA1ノックアウト(KO)ラットで、TRPA1チャネルの活性化が起こらないことを検討する予定である。TRPA1ヘテロ接合体(+/-)ラットは2016年7月に完成予定であったが失敗し、2度目の施術で2017年1月に作成が完了し、5か月遅れで受け渡しとなった。そのため、予定していた実験実施には至らず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在TRPA1ヘテロ接合体(+/-)ラットの飼育、繁殖を実施している。TRPA1ヘテロ接合体(+/-)ラットが必要数得られたら、直ちにヘテロ接合体の♂♀間での交配を行い、TRPA1 KOラットを作成し、Ca2+イメージングの実験を実施する予定である(方法はY.Kimura etal, FASEB J,27,2451-57,2113)。そのため研究費は、ラットの遺伝子型決定、Ca2+イメージング実験に使用する。ラットの遺伝子型はラットの尻尾から抽出したDNAをPCRで増幅し、増幅産物をシーケンング(外注)して行う。PCR用消耗品、酵素の購入、シーケンス費用が必要である。Ca2+イメージングには、細胞培養用の消耗品(ポリ-D-リジンコートdish、培地、血清など)や、Ca2+感受性蛍光試薬(Calcium green1, Fluo 4など)が必要である。
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備考 |
(1)の正式タイトルは、「第4回リサーチフロントアワード(トムソン・ロイター)を受賞した木村英雄 シグナル分子硫化水素(H2S)と一酸化窒素(NO)の相乗効果がポリサルファイド(H2Sn) 生成によることを解明」
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