研究課題/領域番号 |
26460355
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田邉 修 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 教授 (70221398)
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研究分担者 |
鈴木 未来子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80508309)
横澤 潤二 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 非常勤講師 (10722605)
西川 慧 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 研究支援者 (40722616) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子発現制御 / βグロビン異常症 / DNAメチル基転移酵素1 / 胎児型γグロビン / ヒストン修飾 / DNAメチル化 / エピジェネティクス / グロビンスイッチング |
研究実績の概要 |
鎌状赤血球症等のβグロビン異常症の治療法として、胎児型γグロビン誘導療法の有効性が示されているが、そのような作用を持つ薬剤として広く使用されているのはヒドロキシ尿素のみである。しかし本薬剤が効果を示す鎌状赤血球症患者は約半数に過ぎ無いうえ、骨髄抑制等の副作用が課題である。より効果的で安全なγグロビン誘導剤の開発が望まれるが、そのためには胎児型γグロビン遺伝子の、出生後の不活性化機構の解明が重要である。本研究ではDNAメチル基転移酵素1 (Dnmt1)のγグロビン遺伝子不活性化における役割を明らかにするために、以下の3種の変異を導入したマウスの解析を行う。 1)組換え酵素Creの作用でDnmt1を欠失する変異Dnmt1遺伝子(Dnmt1 Floxアレル)、2)Creを赤血球系でのみ発現するCreノックインEpor遺伝子(Epor Creアレル)、3)ヒトβ型グロビン遺伝子座の挿入変異、以上の3種の変異である。これらを全て保有するマウスでは、初期発生に必須なDnmt1の欠失を赤血球系特異的に誘導できると期待され、Dnmt1のγグロビン遺伝子不活性化における役割の解明と、γグロビン誘導剤開発のための分子標的としてのDnmt1の意義が解明されると期待される。このような解析のためには、Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとが同一染色体上に連結したハプロタイプを持つマウスの作成が必要である。このために、平成27年度の1年間にわたって、Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとを異なる染色体上に持つ複合変異マウスと、野生型マウスとの間の交配を継続した。また、代表者らはDnmt1 FloxアレルからDnmt1欠損アレルをすでに作成しているが、これとヒトβ型グロビン遺伝子座の挿入変異とを持つマウスを取得するための交配・繁殖も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度には赤血球系細胞において、Dnmt1遺伝子のFloxアレルがCreによる配列特異的DNA組換えによって欠損アレルへと変換される効率を測定する計画であった。すなわち、Dnmt1遺伝子Floxアレルと欠損アレルの複合ヘテロ接合体変異マウスに、Epor遺伝子を利用してCreを赤血球系特異的に発現させた上で、胎児肝及び成体脾より抽出したDNAを用いて、Creによる欠失領域を検出する定量PCR解析により、Floxアレルから欠損アレルへの変換効率を確認する計画であった。前年度から引き続いて、平成27年度も、この計画を実施するのに必要なマウスを得るための交配・繁殖を行った。Dnmt1遺伝子とEpor遺伝子とは同一染色体上に存在するため、減数分裂組換えによってDnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとが同一染色体上に連結したハプロタイプを持つマウスの作成が必要であるが、両遺伝子間の距離は、わずか1メガ塩基であるため、それらの遺伝学的距離はわずか約0.6 センチモルガン程度である。つまり、Dnmt1遺伝子とEpor遺伝子との間での減数分裂組換えが生じるのは、およそ170減数分裂に1回であることから、Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとを異なる染色体上に持つマウスと野生型マウスとの交配で得られる仔マウス340匹に1匹が、期待するハプロタイプを持つマウスであると予測される。27年度には、約380匹の仔マウスの遺伝子型判定を行ったが、期待するハプロタイプのマウスは取得できなかった。このため、上記計画にそってDnmt1遺伝子のFloxアレルから欠損アレルへの変換効率を測定することができなかった。一方、Dnmt1欠損アレルとヒトβ型グロビン遺伝子座の挿入変異とを持つマウスは取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度にはDnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとを異なる染色体上に持つマウスと、野生型マウスとの間の交配を継続して行ったが、約380匹の仔マウスの遺伝子解析の結果では、この研究に必要な、Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとが同一染色体上に連結したハプロタイプを持つマウスはこれまでに取得できていない。平成28年度の前半に、27年度の4倍程度、すなわち1600匹程度の仔マウスを取得すべく、交配を継続する。Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとが異なる染色体上に存在する複合変異マウスと野生型マウスとの交配では、1腹から8匹前後の仔が生まれるため、計200腹程度の仔が得られれば、このような組換え体1匹を取得できると予測される。今年度は、この交配に50匹のメスを使用して、メス1匹につき3~4腹が得られれば、1600匹程度の仔マウスが取得できる計算となる。これに要する期間は、4ヶ月程と推定されることから、27年8月までには、Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとが同一染色体上に連結したハプロタイプを持つマウスを取得できると予測される。その後、このマウスにヒトβ型グロビン遺伝子座のトランスジーンを交配により導入して繁殖させたうえで、胎仔肝と成獣脾を採取し、これより抽出したDNAを用いて、Creによる欠失領域を検出する定量PCR解析により、Floxアレルから欠損アレルへの変換効率を確認する。同時に、これら臓器より抽出したRNAを用いて、逆転写定量PCR法によりヒトβ型グロビンmRNAを定量し、胎児型γグロビン遺伝子の発現上昇(脱抑制)の有無を調べる。このようにして、ヒトβ型グロビン遺伝子群の発現に対するDnmt1欠損の影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
代表者らは、平成27年度には、Dnmt1 FloxアレルとEpor Creアレルとが連結したハプロタイプを持つマウスを交配により取得し、赤血球系細胞より抽出したDNAを用いてFloxアレルから欠損アレルへの変換効率を測定する計画であった。しかしながら、同年度中に、この計画に必要なマウスを得るための交配・繁殖を行い、約380匹の仔マウスのDnmt1遺伝子とEpor遺伝子の遺伝子型判定を行ったが、期待するハプロタイプのマウスは取得できなかった。このため、上記計画にそってDnmt1遺伝子のFloxアレルから欠損アレルへの変換効率の測定を実行できず、そのための繁殖に使用する予定であった野生型マウス、動物実験施設使用料や、定量PCR解析に使用する予定であった酵素・試薬等、プラスチック器具等の購入費用が次年度(28年度)に繰越されることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、合計 1,325,568円である。このうち645,568円を消耗品費に、390,000円をデータ分析・保管用のコンピュータ等に、190,000円を動物実験施設使用料に、100,000円を旅費等に充てる計画である。消耗品費645,568円の内訳は、購入費として野生型マウスに400,000円、酵素・試薬等に190,000円、プラスチック器具等に55,568円を充てる。うち、野生型マウスの用途は、目的とする遺伝子型を持つマウスを取得するための交配・繁殖である。酵素・試薬等、プラスチック器具等の用途としては、マウスのPCR法による遺伝子型判定や、赤血球系細胞におけるDnmt1遺伝子Floxアレルの欠損アレルへの変換効率を測定するための定量PCR解析、逆転写定量PCR法によるヒトβ型グロビンmRNAの定量解析等に使用する。
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