研究課題
本研究課題は、膵内分泌細胞とくにインスリン産生細胞であるβ細胞の発生および分化成熟の分子メカニズムを明らかにし、糖尿病おける病態生理の理解を更に深化することを目的とする。とりわけ、膵内分泌細胞における大Maf群転写因子、特にMafAとMafB遺伝子の機能の類似点と相違点を明らかにし、全身のインスリン需要が亢進した場合に、両遺伝子が様々なレベルで補完し合うことによってβ細胞機能を正常に維持し、逆にその破綻が重症糖尿病に関与することを証明する。また、大Maf群転写因子を他のβ細胞関連遺伝子とともに,肝臓細胞に遺伝子導入することにより、ダイレクト・コンバージョンによるβ細胞誘導に応用することを目的とする。研究2年目となる平成27年度は、Mafa遺伝子欠損マウスにおいて、β細胞の成熟マーカーであるGlut2、Ucn3遺伝子が発現低下している事を明らかにし、さらにマイクロアレイ解析によって、新たな成熟関連遺伝子の候補を同定した。さらに、β細胞特異的Mafb遺伝子欠損マウスは、明らかなグルコースホメオスターシスの異常を示さないものの、Mafa/Mafb二重欠損マウスは、糖負荷後に高血糖およびインスリン分泌不全を示し、Mafb遺伝子もβ細胞機能に重要な機能を有する事を明らかにした。また、肝臓細胞からインスリン発現細胞へのダイレクトコンバージョンによる糖尿病治療応用に関して、これまでのPdx1/NeuroD/Mafaの3遺伝子に新たなβ細胞関連転写因子を追加する事で、さらにインスリン誘導効率を高めることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度は、Mafa、Mafb遺伝子、それぞれの遺伝子欠損マウスの解析によって、Mafaの下流の遺伝子を同定し、またMafbは、胎生期の発生分化には重要な役割を有するものの、成獣時のβ細胞機能には影響がないことを明らかにした。2年目の平成27年度は、MafA・MafB二重欠損マウスを作製とその解析をスタートすることができ、成獣において、MafAがMafBの機能を代償しインスリン分泌を促進する事を明らかにしつつある。一方で、Mafaはβ細胞の脱分化に関与する事が報告されており、二重欠損マウスでは、その脱分化が増強される事が予測されるため、細胞系譜の追跡実験に必要なマウスの交配をスタートし、平成28年度の準備をスタートした。また、肝臓細胞からインスリン発現細胞へのダイレクトコンバージョンによる糖尿病治療応用に関して、これまでのPdx1/NeuroD/Mafaの3遺伝子に新たなβ細胞関連転写因子を追加する事で、さらにインスリン誘導効率を高めることが出来ており、現在その分子メカニズムを明らかにしている。
研究最終年度となる平成28年度は、研究成果発表に向けて、Mafa/Mafb二重欠損マウスが示す耐糖能異常のメカニズムについて詳細な分子メカニズムの解析を行う。特にインスリン分泌試験による分泌不全の機序、電子顕微鏡によるインスリン顆粒の性状分析、マイクロアレイによる直接のターゲット分子の同定の3点を中心に行う。さらに、肝臓細胞のダイレクトコンバージョンについては、STZ糖尿病モデルに対する効果の持続期間、グルコース応答性、さらにヒト肝臓細胞における効果の有無について、検討を加える。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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