研究課題
申請者が所属するグループで作製したDnm3os遺伝子のノックアウト(KO)マウスには骨や筋肉が矮小であったり形成不全が認められたりする特徴がある。Dnm3osはDynamin3遺伝子のアンチセンス鎖に存在し、miR-199aとmiR-214をコードする。研究グループでDnm3os KOマウスにDnm3osをノックイン(KI)したところ、骨低形成等の表現型の異常はかなりの程度、回復が認められた。一方、KOマウスへの両miRNAの同時ノックイン(KI)動物では、特に椎骨の融合不全の解消や生後の低体重の回復が認められた。よって、両miRNAがKOマウスで認められた表現型の責任遺伝子であることが明確に示された。また、miR-199a/214は心肥大や虚血後の腎傷害モデルにおいて発現量が増加することが示されている。筆者らは、ETAR遺伝子座へのmiR-199a/214のKI動物においてドキソルビシン(Dox)の投与による心筋の線維化が抑制される現象を確認し、DNAアレイで標的細胞の特定を試みたが、明確にすることはできなかった。しかし、単一細胞レベルでの発現解析を行うことで標的が明確になることが期待されたので、Fluidigm社のシステムを利用して単一細胞遺伝子発現解析することとした。筆者らの研究グループでは神経堤細胞(NCC)に由来する心筋の存在を明らかにしているので、NCCを特異的に標識するWnt1-CreマウスとROSA26遺伝子座にloxP-LacZ-loxP配列を有するマウスを交配して得たマウスの心臓について単一細胞の解析系の応用可能性を確認した。その結果、c-KitやSox8を発現する特徴的な一群の存在を確認し、NCC由来の心筋幹細胞の存在が示唆された。この単一細胞分析系を用いて両miRNAのKOマウスとDox投与による心筋傷害モデルに適用して分析を進める計画である。
3: やや遅れている
Dnm3遺伝子座のmiR-199a/214の遺伝子改変マウスと野生型マウスを対象にDNAマイクロアレイによる分析を行ったが、遺伝子発現の比較からはマイクロRNAが標的とする細胞の特定はできておらず、この点は当初の予定より遅れている。ノックアウト(KO)動物で確認された表現型の変化が両miRNAの発現量が野生型やヘテロマウスと比べて低かったことと、複数の細胞から得たRNAを対象とした発現解析であったために細胞特異性が損なわれたことが原因と考えられた。そこで、マイクロRNAの組織特異的は発現量の増加が期待されるROSA26遺伝子座へのmiR-199a/214をノックイン(KI)したマウスと組織特異的なCre発現によるコンディショナルKIマウスの作製も継続して行っている。しかし、これまでに得たmiR-199a/214 KIマウスでも部分的な表現型の回復は認められているので標的細胞の特定に関する精度の向上をはかること、すなわち、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析が有効と考えられた。折良く、所属研究グループでFluidigm社のC1システムが導入されたので、この系を用いてマウスの心臓の単一細胞発現解析を試みた。所属研究グループで樹立した神経堤(NCC)由来細胞を標識するマウスを用いて心筋細胞の発現細胞を試みたところ、単一細胞レベルでの遺伝子発現が可能であることが確認でき、さらにc-KitとSox8が陽性の心筋幹細胞様細胞の存在が初めて確認することができた。そこでドキソルビシン投与による心筋傷害モデルについての単一細胞レベルでの発現解析を行い、標的となる心臓の細胞の特定を行う予定である。
Dnm3os遺伝子ノックアウト(KO)動物で見られた表現型へのmiR-199a/214の関与は明らかになったので、その標的遺伝子の選定について作業を進めていくが、マイクロRNA (miRNA)ノックイン(KI)マウスではmiR-214の発現量が野生型やヘテロマウスと比べて低く、さらに細胞集団として解析したことにより標的遺伝子の変動量が希釈化された恐れがあり、DNAマイクロアレイでは標的細胞や標的遺伝子の特定には不十分と考えられた。ROSA26遺伝子座を利用した組織特異的な発現系を用いて両miRNAを組織特異的に高発現するマウスを作製し、変化の程度を大きくして観測しやすくすることも解決策となるが、単一細胞レベルでの発現解析を実行することにより分析精度の画期的な向上が期待できる。平成27年度には心筋細胞を対象として単一細胞の発現分析の実施が可能であることも確認できた。そこで、次年度ではこの分析系を用いた解析を心筋および腎障害モデルマウスを対象として優先して実施することととする。この解析によりmiRNAの標的細胞や責任遺伝子の候補の選定が高精度で実施可能になると期待している。ETAR遺伝子座へのmiR-199a/214のKIによりDox処理後の心筋傷害が軽減された現象については、遺伝子座にEGFPをヘテロで導入したマウスを樹立しているので、このマウスのEGFP陽性細胞の分析を組み合わせることで機序の特定と解析が容易になると考えられる。特定された標的遺伝子についてはそれらのKI動物の作製には時間を要し、研究期間内での作製が困難なことも考えられる。この点については標的遺伝子を過剰発現するウイルスやそれらを特異的に発現低下させるshort hairpin RNAを発現するウイルスの作製により生体あるいは細胞系での表現型への寄与の判定を行い、miRNAが関与する表現型の機序や傷害耐性を発揮する機序を明らかにする予定である。
発注した試薬の入荷が平成27年度内に間に合わず、平成28年度の入荷となったため。
平成28年度に入荷して利用を予定している。
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Developmental Biology
巻: 402 ページ: 162-174
10.1016/j.ydbio.2015.04.007
http://bio.m.u-tokyo.ac.jp/