研究課題/領域番号 |
26460359
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岩佐 宏晃 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (70582188)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | シグナル伝達 / 腫瘍抑制 / 翻訳後修飾 / フェイルセーフ / RASSF |
研究実績の概要 |
Ras association domain family(RASSF)蛋白質は腫瘍抑制分子と作用を共にすることが知られており、その発現抑制がヒト癌で高頻度に認められている。本研究では、私たちが世界的に研究をリードしているRASSF3とRASSF6を研究対象として、細胞死、細胞周期、細胞極性の制御における役割を解析し、ヒトRASSFの間の共通性と多様性、さらに、種を越えて保存されている機能を明らかにする。私たちは、まず、RASSF6と相互作用することをすでに明らかにしているUNC119A蛋白質に着目し、UNC119AがRASSF6と同様の機能を備えているか否かについて検証を行った。その結果、UNC119AはRASSF6と同様のDNA損傷応答に関与することが明らかになった。次に、私たちはRASSF6が低分子量G蛋白質であるKi-RASに依存したアポトーシス並びに関連分子に作用すること、UNC119Aがそのシグナルを増強することを見出した。以上の結果から、UNC119Aの作用点はRASSF6だけに留まらず、低分子G蛋白質Ki-Rasから伝搬するRASSF6へのシグナルに作用することが結論された。 低分子G蛋白質Rasは細胞増殖や生存シグナルなどに作用するため、Rasの構成的活性型変異は癌化の原因になる。しかし、多くの場合、このような変異による異常シグナルに対して細胞死や増殖停止などのフェイルセーフが働くと考えられており、真に癌化を達成するためにはフェイルセーフの破綻を起こす第二、第三の変異が必要となる。RASSF蛋白質はRasと直接結合すること、変異型Rasによる細胞死に関与することが明らかにされていることから、RASSF蛋白質がUNC119Aと共にRasの異常シグナルによって生じるフェイルセーフの一翼を担っている可能性は極めて高い。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はUNC119A-Ki-Ras-RASSF6からなる新規経路に着目し、この経路が起こす生物学的事象および分子機構について研究を行った。まずKi-RasDAによって誘導される細胞死について検討を行った。Ki-RasはRASSF6と協調して細胞死を誘導することが報告されているが、野生型Ki-RasとUNC119Aとを過剰発現した場合、Ki-Rasの単独発現に比べて細胞死を誘導することが明らかになった。構成的活性型Ki-RasDa変異体を過剰発現すると細胞死が高頻度で起こるが、これはUNC119Aの発現抑制によって減少することが明らかになった。さらに、Ki-RasDaによる癌化は染色体の不安定性に起因すると考えられているが、UNC119AおよびRASSF6の発現抑制下でKi-RasDaを過剰発現すると倍数染色体の発生頻度が増加することが判明した。これらのことは、RASSF6ならびにUNC119AがRasの異常シグナルによって生じるフェイルセーフの一翼を担っていることを示唆している。次に、UNC119A-Ki-Ras-RASSF6がどの分子に作用するかについて検討を行った。私たちはこれまでにRASSF6がユビキチンリガーゼであるMDM2を負に制御することで腫瘍抑制分子であるp53を増加させることを見出している。本研究では、UNC119AがRASSF6と同様にMDM2を介してp53を制御していることを明らかにした。さらに私たちはKi-RasがRASSF6とMDM2の相互作用を増強すること、この過程にUNC119Aが関与することを見出した。これらの結果は、UNC119A-Ki-Ras-RASSF6からなる新規癌抑制経路がいかにしてフェイルセーフを形成するかについての例証を提示している。以上の理由により、「おおむね順調に進展している」と自己評価をしている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、RASSF6遺伝子をはじめとする関連遺伝子の過剰発現の効果、および遺伝子発現抑制の効果についてヒト培養細胞株を用いた遺伝学的実験によって研究を推進した。平成27年度は、UNC119A-Ki-Ras-RASSF6からなる経路が実際に存在し機能することを明らかにした。平成28年度は平成27年度に引き続き、蛋白質精製、質量分析機による蛋白質同定、蛋白質修飾の同定などによって、UNC119A-Ki-Ras-RASSF6から構成される蛋白質複合体を形成しているかどうかを確認する。またUNC119、RASSF、Rasは生物種で保存されるものであるため、本研究で導かれた新規シグナル伝達経路は他の生物種においても保存されている可能性が高い。事実、私たちはこれまでに線虫C. elegansのRASSFとRasホモログが遺伝学的相互作用をすることを報告している。この例にならい、本年度は新しい試みとしてC. elegansにおけるRas、UNC119、RASSFについて着目し、これらが新規経路として種を超えて保存されているかについて検証する。具体的には、それぞれの遺伝子変異体を用いて遺伝学的解析を実施する。生物進化とともに高等生物では腫瘍抑制を高度に発達させたが、その過程の一部は下等生物のときから存在する遺伝子の原型を保ちながら腫瘍抑制分子へと進化させたと類推すると、下等生物にはoncogenic stressを伝達する分子機構がすでに備わっている可能性がある。本研究は癌研究のモデル生物とされてこなかったC. elegansの新展開を狙いとしている。そして、RASSF蛋白質の翻訳後修飾および修飾酵素との相互作用を生化学的・遺伝学的手法を組み合わせることによってRASSFによるフェイルセーフ制御機構の全貌の解明を進める。
|