研究課題
最近、造血幹細胞の運命を単一細胞レベルで解析した結果、造血幹細胞は極めて多様な生物活性を持ったヘテロな集団であることが判明した。生体はこの造血幹細胞の不均一性を維持することで、造血システムを長期間維持し、様々なストレスに対応していると考えられる。本研究では、分裂活性や細胞周期制御に極めて重要なmTORキナーゼ複合体とフォークヘッド転写因子Foxoに着目し、造血幹細胞の不均一性の実体とその制御機構の解明にアプローチする。平成26年度は主に造血幹細胞の不均一性の制御に関わる候補遺伝子の探索を行った。造血幹細胞ではFoxoが活性化していることが知られているが、このFoxoの活性はAktにより負に制御されている。さらにAktの活性はmTORキナーゼ複合体2(mTORC2)に正に制御されている。従ってmTORC2を阻害することでFoxoを間接的に活性化できることが想定される。そこで、CRISPR/Cas9システムを用いて、mTORC2の機能に必須であるRictor遺伝子を欠損するヒト慢性骨髄性白血病細胞株を樹立した。この細胞ではmTORC2によるAktのリン酸化が完全に阻害されていた。mTORC2により制御を受ける遺伝子を同定する目的で、野生型(親株)およびRictor欠損株の遺伝子発現の差異をマイクロアレイ法で解析した。その結果、mTORC2の不活性化により発現が増加あるいは減少する遺伝子を複数同定した。これらの遺伝子は幹細胞においてFoxoにより発現制御を受けている可能性があり、造血幹細胞の不均一性の制御に関わる遺伝子の候補として次年度以降、継続して解析する。
2: おおむね順調に進展している
申請書において平成26年度は主に、造血幹細胞の不均一性の制御に関わる候補遺伝子の探索を計画していたが、Rictor欠損細胞株を樹立し、遺伝子発現変動を網羅的に解析したことで、mTORC2により制御を受ける複数の候補遺伝子を効率よく同定することができた。また次年度以降、造血幹細胞におけるmTORキナーゼ複合体とFoxoの機能解析に用いるRaptor、Rictor、Foxo1、Foxo3、Foxo4、あるいはTsc1遺伝子のコンディショナル欠損マウスの作出・維持が順調に進んだ。これらの成果から、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
平成26年度に同定した造血幹細胞の不均一性の制御に関わる候補遺伝子について、shRNAを用いた遺伝子発現のノックダウン、CRISPR/Cas9システムによる遺伝子ノックアウト、あるいは強制発現を実施し、細胞増殖、細胞周期、分化および細胞死に対する影響を解析し、個々の候補遺伝子の機能を明らかにする。また、作出・維持しているRaptor、Rictor、Foxo1、Foxo3、Foxo4、あるいはTsc1のコンディショナル・ノックアウトマウスを利用して、造血幹細胞や白血病幹細胞でmTORキナーゼ複合体あるいはFoxoの機能欠損または亢進を誘導し、各々の候補遺伝子の発現様式やその機能を詳細に解析することで、造血幹細胞の不均一性に関与する分子機構を明らかにする。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件)
Biochem Biophys Res Commun.
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