研究課題
最近の研究により、造血幹細胞は極めて多様な生物活性を持ったヘテロな集団であることが判明した。生体はこの不均一性を維持することで、造血システムを長期間維持し、様々なストレスに対応していると考えられる。本研究では、分裂活性や細胞周期制御に極めて重要なmTORとFoxoに着目し、造血幹細胞の不均一性の実体とその制御機構の解明にアプローチした。平成28年度は主に造血幹細胞の不均一性の制御に関わる候補遺伝子の探索と機能解析を行った。造血幹細胞ではFoxoが活性化しているが、このFoxoの活性はAktにより負に制御されており、さらにAktはmTOR複合体2(mTORC2)に正に制御されている。従って本研究ではFoxoと、mTORC2の必須分子であるRictorに着目し、それぞれの遺伝子欠損細胞を作出し、機能を解析した。さらに、mTORC2に加えて、mTORC1も造血幹細胞の不均一性に寄与していることが考えられたので、mTORC1の制御因子であるRhebのノックアウト細胞を作出し、その機能を解析した。遺伝子発現プロファイリングにより、Foxo、Rictor、あるいはRhebにより制御される遺伝子を同定した。これらの分子から不均一性に寄与する分子を同定する目的でCRISPRライブラリーを用いた機能スクリーニングを実施し、特に細胞の生存に関わる遺伝子を複数同定した。一方、白血病幹細胞は正常な幹細胞と共通する分子機構を利用することで、宿主内で有利に生存していることが報告されている。また、がん細胞はヘテロな集団を形成することで、抗がん剤に対する抵抗性を付与していることが想定されている。興味深いことに、mTORC2の機能欠損白血病細胞株はイマチニブに対する感受性が亢進しており、イマチニブ耐性を獲得できなかった。この耐性を制御する遺伝子を同定する目的で、CRISPRライブラリーを用いたスクリーニングを実施し、イマチニブ耐性に関わる複数の遺伝子を同定することができた。
すべて 2016
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J Biol Chem
巻: 291 ページ: 21496-21509
10.1074/jbc.M116.734756