当初計画した炎症巣に於けるリンパ管新生の役割について、炎症性腸疾患モデルを作成して検討を行った。炎症性腸疾患マウスは、7日間連続でデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)3%含有水を飲水させることで作成した。ストレスに伴う噛みつきなどの問題から、1ケージに1匹の飼育を行った。CLEC-2欠損マウスについては、骨髄キメラマウスの作成より簡便な抗CLEC-2抗体静注によるCLEC-2 depletionマウス(Dep)を用いた。Depの作成は、実験開始4日前と実験開始後3日目に、コントロールIgG又は抗CLEC-2抗体(2A2B10)又はPBSを尾静脈より投与することで作成した。実験開始7日間後に各マウスを殺処分し体重をコントロールマウス(Con)と比較し、その大腸を用いてHE染色、PAS染色による炎症像の差異、Lyve-1染色によるリンパ管面積の差異、EvG染色による血管面積の差異について、病理所見の解析を行った。殺処分時の体重はDepで少ない傾向が見られたが有意差はみられなかった。大腸の炎症の程度や杯細胞数、潰瘍長もCLEC-2発現の有無による有意な差異は認められなかった。リンパ管密度も若干Depで低い傾向が見られたが有意な差異は認められなかった。一方新生血管の密度はDepで有意に低かった。 抗CLEC-2薬が炎症性腸疾患の病像に大きな影響を与える事は否定的と思われる。しかし当初の予想に反して炎症部位でのリンパ管密度はDepでも保たれて、一方で炎症部位での新生血管密度はDepで低くなっており、炎症部位での血管リンパ管新生に血小板CLEC-2が役割を担っている事が推察された。
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