研究課題
本研究ではチオレドキシンファミリー分子nucleoredoxin (NRX) によるグルコース代謝経路の制御機構と、その役割を追求することを目的としている。平成26年度は、NRXノックアウトマウス由来の繊維芽細胞 (NRX-/- MEF) において解糖系における主要な酵素であるphosphofructokinase (PFK) 1 の活性が低下している、その分子機序を明らかにすることなどを主要な研究対象としていた。特にNRXが還元活性を示し、またPFK1の酵素活性が酸化・還元によって変化することが知られていたため、PFK1の酸化について中心的に調べた。まず確認実験として、PFK1の組換え精製タンパク質の酵素活性を還元剤ジチオスレイトール(DTT)の有無で比較したところ、DTTの存在下で高い活性を示しており、既報どおりPFK1の酵素活性がレドックス依存的であることが確かめられた。次に酸化、あるいは還元、それぞれの状態のNRXの組換え精製タンパク質との共存下で比較したところ、還元型のNRXと共存下でのみ、PFK1の酵素活性が上昇することが明らかとなった。これらの実験結果より、NRXはPFK1を還元することで、その酵素活性を高めていると考えられた。実際にどのアミノ酸残基が酸化されているか調べるべく、S-S結合の検出に汎用される非還元型SDS-PAGEを行ったところ、PFK1の泳動度に明確な差は見受けられなかった。このため、PFK1の酸化修飾は非還元型SDS-PAGEで泳動度が変化する、分子内あるいは分子間ジスルフィド結合とは異なる様式であると想定された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主要な目的である、NRXによってPFK1の働きが変わる、その仕組みの解明について、NRXによるPFK1の酸化・還元制御が関わっていることを示唆する結果が得られている。
上述のように、昨年度の研究でNRXによるPFK1の活性制御機構の一端が明らかとなっており、今後さらに研究を進めていくことで、具体的なアミノ酸レベルでの酸化・還元修飾の実体解明や、その意義について明確にできると想定される。
平成26年度は計画していた研究の中で、NRXによりPFK1の働きが変わる、その仕組みの解明につながる明確な進展が見られたため、特に集中して研究を行った。そのため比較的費用を要しないin vitroでの実験が主体となり、一方で平成27年度以降にマウス個体レベルでの解析など、多額の費用を必要とする実験が集中するため、次年度使用額が発生している。
平成27年度は引き続きNRXによるPFK1の活性制御機構についても解析を行うが、上述のとおり平成26年度に集中して行ったため、平成27年度内に明確な結論が得られるものと期待される。この結果を反映させて、平成27年度と平成28年度に細胞レベルでの実験、およびマウス個体レベルでの実験を行う。すでに明確となりつつある、タンパク質レベルでの制御機構についての知見を基盤として解析を行うことで、当初計画よりもより明確な成果が得られる可能性が高まっていると考えられる。
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