研究課題
分泌蛋白質のWntは上皮細胞の極性化に重要な機能を果たしていることは明らかになりつつあるが、Wntやその受容体が極性化された上皮細胞において頂端部あるいは側底部に輸送され、細胞応答を制御する機構は不明である。これまでに蛋白質の翻訳後修飾が細胞内の局在や小胞輸送に関連することが示唆されている。そこで、本研究はWntの糖鎖と脂質修飾の実体を明らかにすると共に、Wntとその受容体の細胞内トラフィックと細胞応答との関連を明らかにすることを目的としている。これまでに、私共は極性化されたMDCK細胞においてWnt5aとその受容体であるFz2とRor2が側底側に輸送されることにより、Wnt5aシグナルが活性化され、FAKとPaxillinのリン酸化やRac1の活性化を介して細胞-ECM接着が促進され、その結果、MDCK細胞のシストにおける内腔形成が促進されることを明らかにしている。今年度、私共はマス解析によるWnt5bの翻訳後修飾とWnt1とWnt5bやWnt受容体のLRP6の細胞内トラフィックの制御機構を解析した。その結果、Wnt5bの93番と305番のアスパラギンに高マンノース型、291番のアスパラギンにハイブリッド型糖鎖が付加され、223番のセリンにパルミトレイン酸が付加されることを明らかにし、PANC1細胞やCaco2細胞においてWnt5bがExosomeを介して細胞外に分泌されることを見出した。また、極性化MDCK細胞においてWnt1は頂端、側底側両者に分泌され、頂端側への分泌にExocystが関連することを見出した。さらに、肝細胞癌細胞株のHepG2細胞においてLRP6が側底部に輸送された後、頂端膜へトランスサイトーシスされることを見出した。これらの研究成果はWntとその受容体の細胞内トラフィックの制御機構の一端を解明し、細胞内輸送の研究分野の進展に貢献すると考えている。
2: おおむね順調に進展している
これまでにWnt蛋白質は細胞外マトリックスに結合する傾向が強く、生理活性を有するWntとして単離、精製することが困難であったため、Wnt蛋白質の翻訳後修飾の実体やその生理機能の詳細は明らかにされていなかった。本研究において、大阪大学蛋白質研究所の高尾敏文教授との共同研究により、Nano-liquid chromatography (LC)/electrospray ionization (ESI)-mass spectrometry (MS)/MSを用いて、Wnt5aやWnt5bに付加される脂質や糖鎖構造を明らかにした。また、Wnt5bがPANC1細胞やCaco2細胞においてのExosomeを介して細胞外に分泌されること、極性化されたMDCK細胞においてWnt1がWnt5aやWnt11とは異なりWnt1が頂端、側底側の両者に分泌されることを見出し、新たなWntの分泌制御を明らかにしつつある。また、Wnt受容体のLRP6がHepG2細胞において頂端膜へトランスサイトーシスされることを見出し、LRP6受容体がWntシグナル経路とは異なりWntリガンド非依存性に脂質代謝を制御することが示唆された。今年度はこれらの研究成果に関する論文を投稿する予定であり、当初の計画通り研究が進展していると考えている。
これまでにWntファミリーにおいて受容体との結合や細胞外分泌に違いがあるかを系統的に解析し、Wnt5aやWnt5bの糖鎖修飾や脂質修飾によるWntの機能発現制御を明らかにしてきた。今後は極性化MDCK細胞においてWnt1は頂端、側底側両者に分泌されることを見出したので、それらの分子機構を明らかにする。また、Wnt5bがPANC1細胞やCaco2細胞においてのExosomeを介して細胞外に分泌されることを見出したので、その生理的意義を解析する。さらに、β-カテニン経路の活性化に必要なLRP6受容体が肝細胞癌株HepG2細胞において一度側底膜に輸送された後、頂端膜へトランスサイトーシスされることを見出しているので、その分子機構とコレステロール代謝におけるLRP6の作用機構を解析し、Wntシグナル経路とは異なるLRP6の生理機能を明らかにする予定である。
2015年12月に神戸で開催された生化学会で学会発表したため、予定の旅費よりも低額であった。今年度はこれまでの研究成果を複数の論文に投稿するために、それらの投稿料や掲載料が必要になる。また、WntやLRP6受容体のの細胞内輸送と生理的意義を解析するために、大量の消耗品が必要であり、消耗品費として使用する予定である。
主に下記の1)から3)の消耗品を購入する予定である。1)哺乳動物細胞を培養する際に使用する大量の牛胎児血清やメディウム、培養用器具。2)蛋白質の発現やノックダウンをする際に使用する高額の分子生物学用試薬やトランスフェクション用試薬。3)Wnt蛋白質の機能解析をするために使用する抗体、protein A sepharose(免疫沈降用)、ならびにWnt蛋白質を精製する際に必要な各種担体Wntの精製に必要なカラムや担体、質量分析用試薬、Wntの極性分泌を解析するためのトランスウェル。また、研究成果を学会で発表するための旅費として使用すると共に論文を投稿するための投稿料や掲載料に使用する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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