ホスファチジルイノシトール-リン酸化酵素;PIKfyveの生体内での役割を明らかにするため、PIKfyveのエキソン5をloxP配列で挟んだPIKfyve floxマウスを作製し、マクロファージ特異的にcreリコンビナーゼを発現させるlysm-creマウスと掛け合わせを行った。その後、マクロファージ特異的にノックアウトマウスを作製し、解析を行った。これまで、さまざまな組織における組織マクロファージの割合について調べたところ、肺に存在するマクロファージの割合が減少していることが明らかになった。肺には主に2種類のマクロファージが存在し、協調的に作用することにより、病原体排除と恒常性維持に寄与していることが知られている。PIKfyve欠損マウスでは、そのうち肺胞マクロファージとよばれる細胞の増殖が抑制され、分化になんらかの異常があることが示唆された。そこで、分化段階を調べるため、マウス生後1日、3日、1週間の胎児から肺を採取し、含まれる肺胞マクロファージの分化状態を野生型、PIKfyveノックアウトマウスで比較することで、どの段階で分化異常をきたしているかを検討した。その結果、通常野生型由来肺胞マクロファージは、表面分化マーカーであるSiglec-FとCD64の発現が非常に高くなっているが、PIKfyveノックアウトマウス由来の肺胞マクロファージでは、Siglec-FとCD64の発現が減弱している未分化な状態であることが示唆された。また、ダニの抗原を用いたアレルギーモデルでは、PIKfyveノックアウトマウスで増悪化したことから、この未分化なマクロファージが、アレルギーの抑制ができなくなっていることが明らかになった。詳細な解析から、未分化な肺胞マクロファージでは、制御性T細胞の誘導に関わるレチノイン酸の産生が抑制されることで炎症性T細胞が過剰に増殖する結果、PIKfyveノックアウトマウスではアレルギーが昂進することが明らかとなった。
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