研究課題/領域番号 |
26460369
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
福嶋 俊明 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 助教 (70543552)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インスリン / インスリン様成長因子 / インスリン受容体基質 / ユビキチン / がん / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、これまでに、インスリン/IGFシグナルを仲介するIRS-2にユビキチンリガーゼNedd4が結合すると、IRS-2がモノユビキチン化され、インスリン/IGFに応答したIRS-2のチロシンリン酸化が促進、インスリン/IGF活性が増強することを見出してきた。本研究では、インスリン/IGF活性の異常が関与して起こる糖尿病やがんに着目し、これらの発症・進行におけるNedd4-IRS-2複合体の役割を明らかにすることを目的にしている。 多くの前立腺がんでNedd4が過剰に発現していることが報告されている。前立腺がん細胞を用いて解析した結果、Nedd4-IRS-2複合体の存在が確認され、Nedd4の発現抑制によってIGFに応答したIRS-2のチロシンリン酸化・下流シグナル経路の活性化・細胞増殖が抑制された。また、Nedd4によるIGFシグナルの増強は、ユビキチン結合タンパク質Epsin1が仲介することを既に明らかにしているが、前立腺がん細胞でEpsin1を発現抑制するとIGFに応答したIRS-2のチロシンリン酸化・細胞増殖が抑制された。以上から、前立腺がん細胞ではNedd4-IRS-2複合体が過剰に形成されており、これによりIGFシグナルが増強、細胞の過増殖の一因になっていると考えられた。 一方、肝細胞を用い、インスリン活性を変動させる種々の刺激がNedd4-IRS-2複合体に与える影響を検討したところ、糖不足に応じてNedd4の自己ユビキチン化、Nedd4-IRS-2複合体の形成、IRS-2のユビキチン化が進み、インスリンシグナルが増強することがわかった。インスリン抵抗性を誘導することが知られているPKC活性化剤PMA、JNK活性化剤アニソマイシン、ERストレス誘導剤ツニカマイシンの刺激では、Nedd4-IRS-2複合体への影響は見出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほとんど計画通り進行しているが、いくつか遅れている検討項目がある。研究開始当初、『Nedd4が分子内相互作用により“閉じた構造”になるとNedd4-IRS-2複合体の形成が抑制され、逆に、Nedd4が“開いた構造”になると複合体形成が促進する』という可能性を考え、Nedd4の分子内相互作用を FRETにより検出・定量する系の開発を計画していた。開発できれば、Nedd4-IRS-2複合体形成機構を調べるツールとして有用だが、今年度は系の確立に至らなかった。また、肥満マウスを用いたNedd4-IRS-2複合体の解析も遅れている。一方、今年度の研究の過程で、ユビキチン化したIRS-2に脱ユビキチン化酵素USP15が相互作用するという想定外の発見をした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、主に、Nedd4とIRSの複合体形成を促進/阻害する低分子化合物の開発を進める。手法の開発に成功したあとは、これを用いてNedd4-IRS複合体ががんや糖尿病の発症・進行に果たす役割を調べていく予定である。なお、【現在までの達成度】の理由欄に記入したように、Nedd4の分子内FRETの系の確立、肥満マウスを用いたNedd4-IRS-2複合体の解析については初年度遅れが生じたので、次年度も引き続いて取り組むこととする。また、新たに着目している脱ユビキチン化酵素USP15はNedd4に拮抗的に働く可能性があり重要と考えられるため、その機能解析を次年度の研究計画に加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
Nedd4の分子内FRETの系の最適化が終了しておらず、これを用いてNedd4-IRS-2複合体形成機構を調べる実験に遅延が生じた。また、インスリン抵抗性モデルにおけるNedd4-IRS-2複合体の解析では、本年度は培養細胞系での解析で多くの実験を行うこととなり、肥満マウスを用いた解析に遅れが生じた。そのため、これらの遅延している実験の実施に必要な助成金を次年度に使用することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を用いて、遅れているNedd4の分子内FRETの系の確立、肥満マウスを用いたNedd4-IRS-2複合体の解析を進める。さらに、翌年度分の助成金を用いて、Nedd4とIRSの複合体形成を促進/阻害する低分子化合物の開発を進める。また、新たに着目している脱ユビキチン化酵素USP15はNedd4に拮抗的に働く可能性があり重要と考えられるため、その機能解析も行う。
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備考 |
広島大学医歯薬保健学研究院医化学研究室 http://home.hiroshima-u.ac.jp/ikagaku/
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