研究課題
研究代表者は、これまでに、インスリン/IGFシグナルを仲介するIRS-2にユビキチンリガーゼNedd4が結合すると、IRS-2がモノユビキチン化され、インスリン/IGFに応答したIRS-2のチロシンリン酸化が促進、インスリン/IGFの細胞内シグナルや生理活性が増強することを見出してきた。本研究では、インスリン/IGF活性の異常が関与して起こる糖尿病やがんに着目し、これらの発症・進行におけるNedd4-IRS-2複合体の役割を明らかにすることを目的にしている。平成26年度の解析から、前立腺がん細胞ではNedd4-IRS-2複合体が過剰に形成されており、これによりIGFシグナルが増強、細胞の過増殖の一因となることが示された。一方、肝細胞が過剰の糖にさらされるとNedd4-IRS-2複合体の形成が阻害されてインスリン感受性が低下、これが糖尿病発症の一因となる可能性も示された。平成27年度は、ユビキチン化したIRS-2に相互作用する脱ユビキチン化酵素を探索し、Ubiquitin specific protease (USP) 15の同定に成功した。HEK293細胞や前立腺がんPC-3細胞を用いて解析した結果、USP15を過剰発現すると、Nedd4によって誘導されるIRS-2のユビキチン化が抑制され、IGF-I 刺激に応答したIRS-2のチロシンリン酸化も低下した。一方、USP15の発現を抑制すると、Nedd4によって誘導されるIRS-2のユビキチン化が促進、IGF-I 刺激に応答したIRS-2のチロシンリン酸化が増強した。以上の結果から、USP15はNedd4がIRS-2に付加したユビキチンを除去し、インスリン/IGFに応答したIRS-2のチロシンリン酸化を抑制、インスリン/IGFの生理活性を減弱する役割を果たすと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究の過程でユビキチン化したIRS-2に脱ユビキチン化酵素USP15が相互作用することを発見したので、平成27年度はその機能解析について精力的にすすめた。研究実績の概要で記したように、USP15がIRS-2の脱ユビキチン化酵素として機能することを示すことができた。さらに、これまで申請者らが明らかにしてきた「IRS-2のモノユビキチン化がインスリン/IGFシグナルを促進する」という新規の分子機構の存在を、脱ユビキチン化酵素の解析を通じても確認することができ、順調に研究が進行したと言える。
平成27年度は、Nedd4-IRS-2複合体の機能を負に制御するUSP15の機能解析に注力した。平成28年度は、がんや糖尿病の病態モデル細胞を用いて、Nedd4-IRS-2複合体に相互作用するタンパク質(USP15を含む)の結合量の変動、および、Nedd4やIRS-2の分子修飾の変動をLC-MS/MSで解析し、これをもとに複合体の形成と乖離の分子機構の解析を進めることとする。また、Nedd4-IRS-2複合体形成を促進/阻害する低分子化合物をスクリーニングする系として、Nedd4 とIRS との結合量をELISA で測定する手法の開発を予備的に進めてきたが、より感度よく結合量を測定できるAlphaテクノロジーを用いることとし、スクリーニングに着手する。また、最近になり、Nedd4のユビキチンリガーゼ活性を促進する物質が報告されたので、これがIRS-2を介したインスリン/IGFシグナルを増強するかについても確かめる。最終的には、明らかとしたNedd4-IRS-2複合体形成機構の知見や、複合体の機能に影響を与える物質を利用し、Nedd4-IRS-2複合体の形成/乖離ががんや糖尿病の発症・進行に寄与することをモデル細胞等で証明する。
平成26年度の研究の過程でユビキチン化したIRS-2に脱ユビキチン化酵素USP15が相互作用することを発見し、その機能解析が研究推進にとって大変重要であったため、平成27年度はそれについて精力的に研究をすすめた。一方、Nedd4-IRS-2複合体に相互作用する他のタンパク質も見つかっており、Nedd4やIRS-2の分子修飾も含めて複合体形成の調節に重要と考えられたので、その解析を平成28年度に行う予定とし、必要な研究費を平成28年度使用分として残した。
平成27年度から繰り越した研究費と、平成28年度の研究費をあわせ、がんや糖尿病の病態モデル細胞におけるNedd4やIRS-2の分子修飾/結合タンパク質をLC-MS/MSで解析し、これをもとにNedd4-IRS-2複合体の形成と乖離の分子機構の解析を進める。また、Nedd4とIRS-2との結合量をAlphaテクノロジーで測定する手法の開発を進め、Nedd4-IRS-2複合体形成を促進/阻害する低分子化合物のスクリーニングに着手する。最終的には、明らかとしたNedd4-IRS-2複合体形成機構の知見や、複合体の機能に影響を与える物質を利用し、Nedd4-IRS-2複合体の形成/乖離ががんや糖尿病の発症・進行に寄与することをモデル細胞等で証明する。
*と同じ内容は、東京大学大学院農学生命科学研究科HP (http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2015/20150420-1.html)、及び、広島大学HP(http://www.hiroshima-u.ac.jp/news/show/id/22883)からも発信された。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) 図書 (1件) 備考 (4件)
Sci Rep.
巻: 6 ページ: 20157
doi: 10.1038/srep20157.
Bioscience and Industry
巻: 74(1) ページ: -
甲状腺学会誌
巻: 7(1) ページ: -
Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.
巻: 308(2) ページ: G151-8
doi: 10.1152/ajpgi.00198.2014.
巻: 309(1) ページ: G42-51
doi: 10.1152/ajpgi.00443.2014.
Am J Physiol Endocrinol Metab.
巻: 309(3) ページ: E214-23
doi: 10.1152/ajpendo.00553.2014.
PLoS One.
巻: 10(6) ページ: e0127467
doi: 10.1371/journal.pone.0127467.
Mediators Inflamm.
巻: 2015 ページ: 125380
doi: 10.1155/2015/125380.
J Biol Chem.
巻: 290(40) ページ: 24255-66
doi: 10.1074/jbc.M115.658559.
Nat Commun.
巻: 6 ページ: 6780
doi: 10.1038/ncomms7780.
Front Endocrinol (Lausanne).
巻: 6 ページ: 73
doi: 10.3389/fendo.2015.00073.
http://endo.ar.a.u-tokyo.ac.jp/shingroup/index.html
http://home.hiroshima-u.ac.jp/ikagaku/
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/novel-regulatory-mechanisms-of-animal-growth-and-cell-proliferation.html
http://komada-lab.jimdo.com/